第620話 目覚めし者は優雅に嘲笑す ④

 墓守達、もう自称だろうがなんだろうが、名を知る気もないのでそう呼ぶ。

 その彼らを館の庭に引き出し転がす。

 今となっては、この男達も焼いてしまうが簡単な始末である。

 だが神が報いをと考えているなら、人の我らが手を出す事ではない。


「結局、面倒な事だが、コルテス本拠地につなぎをつけねばならん」


 コルテス本家がどうなっているのか、公爵の事もですが、心配ですね。


「引きこもっているって話だが、それも本当かどうか」


 内地に使者をたてるんですよね。


「自治干渉になるが、コルテスの物をこうして焼き払う訳だしな。

 正式な手順とやらで接触を図る。

 まぁこれで内乱の兆候でもあれば、大規模侵攻の足がかりにもできそうだ。」


 実際、中央は東部マレイラ自治に干渉したいのですか?


「潤沢に鉱物や利益を放出し続けているなら、どうでもいい。

 だが、少しでも上納品がかすめ取られていると知れば、がめつい奴中央王国政府らとしては放置できん。火薬庫とわかっているが未だに同盟国群で属国では無いという認識の者達だからこそ、手を突っ込んでくるだろうさ。

 まぁ俺の役目は笛吹だ。

 軋轢があるなら煽って、燃えねぇなら火をつけるのが役目だしな。」


 事を荒立てて綻びや争いの目をあぶり出す役目、なのですか?


「嫌な奴が一人いると、仲間内の態度が面白い事になるだろう?

 結託する者、日和見する者、情報漏洩する者。

 軍内部で言えば、俺達の役割は綱紀粛正と争いの芽を見つける事だ。

 それは中だけじゃなくて、外の出来事に対してもだ。

 そういう意味で、憲兵組織の上が俺達直属隊だ。

 実は周知されていないがな」


 部外者だからって喋っちゃ駄目です。


「部外者で、神殿の者だからさ」


 神殿所属ではありません。


「神殿の庇護下ではあるし、身元の保証人は神の使いだろうが。

 で、この直属隊の上は、公王と獣王だ。

 で、お前にペラペラ喋ったところで、お前が漏洩する先が無いのもある。

 村人に喋っても、神殿の者に喋っても意味がない。というより、相手が嫌がるだろう。」


 それもどうかと。


「それにな、俺からのこうしたお喋りは耳に残しておけ。

 この土地や人間、軍で出会う人間がどういった立場にあるのか、薄ぼんやりとでもいいから頭に入れておくんだ。

 そうすれば、自分の目の前にいる人間の言動や立ち回りの意味がわかる。」


 旦那。


「正しいだけの人間はいない。」


 それが?


「お前は良い水の中で育った。

 だから理解できていない。

 この世には、悪さをする悪人がいるとお前もわかっているだろう。

 だが一番、質の悪いのは弱い人間だ。」


 何を言っているんです?


「ここでいう弱さとは、自分への言い訳が上手な嘘つきの事だ。

 女子供弱者の事ではない。

 自分を正しいとして、あらゆる不正も悪事も、仕方がない事だとする者の事だ。

 そういう奴は問題が起きない限り、普通の善き人として暮らしている。

 暴力も振るわず、盗みもしない。

 だが一旦、物事が上手くいかなくなると、嘘をつき他人を裏切り、殺すんだ。

 それも自分の手は汚さずに、被害者のふりまでする。

 わかりやすい悪人を見れば、お前も警戒するだろう。

 だが、本当に気をつけなければならないのは、お前に優しい言葉をかけてくるこうした弱い嘘つきどもだ。」


 何故、そんな話を?


「コルテスのこの不穏な状況を考えれば、いずれお前は神殿の中へと戻されるだろう。

 それで安全になるとは思えない。

 俺の側から離れてもな、きっと俺達の関係者だという認識もなくならない。

 頑固一徹なお前でも、弱者に対しては警戒しまい。

 俺の弱みと思われ、悪意をもって近寄ってくる者もいるって事だ」


 それほど甘くは無いです。


「それが甘いんだよ。

 お喋りな俺ってのが、そもそも周りから見れば、異常だからな。

 お前だけにこうして話しかけている。

 もちろん、今、付き従ってる奴らは大丈夫だ。

 だが、城塞の奴らは違う。

 さぞや面白い事になっているだろう」


 つまり、私を餌にしていると。


 笑うカーンの顔を見て、忠告と告白に口を曲げた。

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