第699話 帰路にて ⑪

「さて、嘘つきの爺様の口から出たまことを受け取った貴殿は、だ。

 公王陛下、ランドール殿に何も告げない事のまずさを理解できたでしょうか?

 姫が姫であるとわからぬ神殿方ではない。

 わかっているからこそ実を述べていないのです。

 きっと、どこが安全なのか、わからないのでしょう。

 ですがニコルの夫である私は、義兄の考え方を知っています。

 言い方は悪いですが、数年で変節するほど真っ直ぐなお方でもない。

 私の知る人のままでしょうね。

 ならば最善とは言えずとも最悪ではない選択として、王にこそ報告すべきと忠告します。

 もちろん、長らく眠っていた間抜けの考えですがね。」


「係累としての権利があるとしも、これは同種の子であって血で繋がっているわけではなかろう。その本意は何だ?」


「繋がっているとわかるからです。

 そして不幸になってほしくないからですよ。..これ以上、誰もね」


「嘘だな」


「さぁ嘘かもしれません。

 精霊種が人の目から消え失せて何年経過したでしょうか。

 公王代替わりの年月と同じでしょうか。

 原種の特徴を持つ少女が私の眼の前にいますね。

 年齢はいくつでしょうか?

 当時は赤子でしょうか?

 女狩りと称しましたが、女ならばと赤子も奪われたのですよ。

 この蛮行こそが殿原因のひとつです。

 無事に逃れ生き延びたのなら、きっとまわりの大人たちが彼女を隠したのでしょうね。

 当時もきっと可愛らしい赤子だったでしょう。

 から隠す。

 相当の覚悟だったでしょう。

 きっと土地の支配者は、分かっていたはずですからね。

 皆で口を噤んだのです。

 数少ない女狩りの魔の手から逃れた子供。

 一族を滅ぼされ、女狩りの手から逃れ、やっと生きながらえた子供。

 父母の縁を探すには、神殿の力が必要でしょう。

 氏素性を隠すために、すべてを捨ててしまったでしょうからね。

 きっと家族の記憶も無いでしょう。

 何ですか?

 そのまずい物を食べたような顔は?

 あぁ思い当たるのですね。」


「自分は亜人の出だ。と、思っていたようだ。」


 「神殿は、分かっていて口を噤む。

 何処かの貴族のご落胤を見つけるのとは訳が違いますからね。

 もう、秘密にするのが一番と考えているはずです。

 彼らは恐れていますからね。

 これ以上、背教の輩を呼び寄せたくはない。

 それに支配者層に彼らを知らしめるほど、勢力として残っていないのもあるでしょう。

 見つけたとしても、彼ら自身に力は無い。

 政治的な力もありません。

 逆に信心を利用される事はあるでしょう。

 だからこそ義兄は、滅ぼしてしまった種の子を姫と遇するでしょう。

 神殿の、方は、もう認めているでしょうしね」


「強ち嘘じゃねぇって事かよ」


「まぁ女性は全てお姫様ですけれど」


 真顔で言うな。

 と、言う苦々しい感情が伝わる。

 私は目を閉じたまま、いつまでこの会話を寝たふりで、聞かねばならないのだろう。


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