第698話 帰路にて ⑩
「そうですね、辻褄があわない話を言っている。
それにも理由があるのですよ。
さて、先代とランドール殿、それに二人の姫は同株ですので、兄弟姉妹と名乗ってもおかしくはない。
同じ花の種から産まれた兄弟姉妹ですね。
彼らは混合体であった。
しかし三番目の姫、彼の方は先代の血を分けた長命種です。
命の館からではなく、女の腹から産まれた方ですからね。」
「じゃぁ当然、精霊種うんぬんは嘘、なんだろ?」
「..覚えておきなさい。
嘘として真を喋るのは、貴方と姫のためですからね。
先代は長命種でも獣人王家の者でもない種族を、妻に迎えた。
子供を得る為にです。
ここで貴方の姫の話になるのですよ。」
「姫、じゃねぇよ」
「いいえ、姫なのですよ。
精霊種については、知っていますよね」
「公王勅令で、精霊種の保護とやらが出ている希少貴重な種だ」
「なぜ保護を申し出ているかは?」
「公王の知己の親族を..、爺ぃ、どこまで嘘か吐け!」
「ほほほっ、久方ぶりに爺ぃ呼びをされましたよ。
では、爺ぃの話を半分本気で聞きなさい。
三番目の姫は、先代の子供です。
ここまでは本当で、誰もが知っています。
貴方のように、王系譜と関わりのある身分の者ならば、当然の知識ですね。
改竄の理由も、深く探らずとも納得がいく。
さて、私は言いました。
先代は最後に精霊種の奥方を得たと。」
「それは本当なんだな」
「その奥方との子は姫ではない、と、貴方も知っている。
姫ではないですが、精霊種の子で長命種。
先代の子として記録されて、母親は精霊種。
彼女の存在と身分の記録は残っています。
失われたのは、彼女が先代によって亡くなった事柄の方です。
焚書によって失われた事になっているでしょう。
さて当時、精霊種の奥方様も含めて、たくさんの女が後宮に集められました。
今は廃止され、建物さえも残らない巨大な牢獄にです。
今だに庶民にも伝わる、名無しの女狩りですね」
「どこまでが本当なんだよ..」
「長命種、準人族、獣人種、混血、亜人、幾人もの女性を集めました。
そこに望んで人柱を出した者は多くは無い。
色狂いとの評判でしたが、そんな理由で女を集める者ではなかった。」
「人質か?」
「人質という理由もありましょうが、庶民の女達も狩ったのです。
珍しい種族の女と聞けば、有無を言わさず召し上げた。
既婚者であろうと成人前の娘であろうと、婚約者がいようともです。
扱いも酷いものでした。
子供が欲しかったのなら女性を大切に扱うでしょう。
ですが、無事に生き残った者など少数。
本妻だった大公血族の方など、最後まで行方知れずでした。
庶民から召し上げられた者など、行方知れずで親元へは遺体も帰らない。
だからといって貴族出ならば、親族へと栄誉が与えられた訳でもない。
名無しの死後は、貴族位の女達は殉死を強いられもしました。
好きで集められたわけでもないというのにです。
後付された風聞もありましょうが、そうした酷い行いがあったのですよ。」
「それだけ好き放題やれば、首も飛ぶわけだな。
妾の二三人で満足すればよいものを」
「そうですね。
権力をかさにきて、女性を自由にするという発想が嫌いです。
卑小な男の証明を自らしているわけですから。
そんな塵くずは腐り果てて花の養分になれば良いのです。
おっと、話がそれてしまいました。
精霊種の奥方の存在は、つまり同種族の者が公王係累、親類と遇される根拠となります。
代替わりの混乱によって、精霊種は散逸。
そして兄君の善意が裏目に出て、精霊種は消えてしまいました。
ほら、あまり深刻な内容ではありませんでしょう?」
「クソッが、どう考えても深刻でよくねぇ話だろうがっ!」
「そんな大声では、姫が起きてしまいますよ」
「姫じゃ..姫?この子猿がか」
「子猿、卿の目は節穴のようですね」
「爺ぃ、いい加減にしろよな。
まぁ理由はわかったが、神殿でもこれの扱いは慎重にと言われている。
守護するに異存は無いし、俺のところも問題ない。
ただし、報告は神殿に確認してからだ。」
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