第420話 モンデリー商会 ②

 暁に歩兵が出るまで、銅鑼は鳴り続けた。


(海戦の権利、東回りの航路、航海域は東公の権利が保証されている。

 それによる義務も彼らが負っている、はずなんだけどね。

 中央軍はいらない。

 権利は自分たちのものだ。

 無能で権利だけ主張する屑がよく同じことを言うよね。

 有能な統治者がいれば、強固で閉鎖的な自治もいいだろうさ。

 けれど、外部とのつながりをすべて断つような判断は、結局先細りになるのは当たり前だと思うんだ。

 万能な人間なんていないのにね。

 まぁ彼らの自滅なんて、どうでもいいか。

 さて、アッシュガルトに、中央の海軍兵力も軍艦も無い。

 まぁ戦略を考えたらありえない話だけどね。

 けれど、この東は特に難しい潮流と地形をしていてね、ジグの磁場異常で荒れる海もそうだけど、非常に難しい航海路なんだよ。

 だから彼ら自身の主張を許しているのさ。

 手を出して余計な労力を使う必要はない。

 そこで置かれたのが、公王の貿易会社さ。

 王の懐から出た物だ。

 誰がその懐に手を伸ばす?

 誰だってわかる。

 これが罠だってね。

 あえて彼らにちょっかいをかけるのは、自殺志願者か馬鹿だけなのさ。

 そしてモンデリーとは商船を有する商会だ。

 彼らの商会と船は、アッシュガルトの街外れにある。

 湾を挟んで反対側の灯台近くだね。

 この灯台が置かれたのも、この湾から見える範囲に事故が多かったからなんだ。

 ここから少し沖は奇妙な潮流が渦を巻いていて危険なんだよ。

 そこでアッシュガルトに立ち寄らなくとも湾の近くを船が通る。

 ところが、こちら側も浅瀬と船が通れる深い場所が複雑に入り組んでいた。

 アッシュガルトの東回りの航路は、経験豊富な航海士がいても、難所なんだ。

 ん?

 半分寝てても気がついた?

 そうだよ。

 だから夜間に航行はしないで、このアッシュガルトを抜けるのは昼間に調整するんだ。

 夜は危ないからね。

 沖に一時停泊する大型の船もあるし、昼間のうちに港に入るのがいちばん多いかな。

 なら、どうして夜に船が沈むのか。

 まぁ簡単に考えれば、誰か無茶な航海予定を組んだか、はたまた経験の浅い者の落ち度となる。

 でも、ここは三公の船かモンデリー関連の船しか来ない。

 面倒に巻き込まれたくないからね。

 でも、船は沈んだ。

 どうしてだと思う?


 船は夜、動かしたくない。

 モンデリーは、私掠船だけど襲いかかったりはしない。

 利益が無いからね。

 三公の船ならば、領兵は、沈んでから略奪だ。

 彼らにはそんな武力もないからね。

 じゃぁそもそもだ。

 夜に船を動かさねばならない事って何だろう?)


 後ろ暗い行いをしているか、か、だろうか。


(もうひとつあるよ。

 か、だよ。)


 寝れないのだが。

 それとのと何が違うんだ?


(僕のお喋りが原因とか言わないでよね。

 それから、全然意味が違うでしょ。

 追い立てられて沈む。

 追いかけられて沈む。

 どっちが怖いお話だい?

 出て行けと言われるのと、ぜったいに逃さないというのは、真逆じゃないか。

 まぁどっちでも楽しいけどね)


 つまり追われて沈んだのか。


(起きたほうがいいね。今日は忙しくなりそうだ。)

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