第421話 モンデリー商会 ③

 外洋大型船が二隻、アッシュガルトからすぐ沖で沈没した。

 湾の浅瀬を迂回するのに、方向を誤り激突。

 片方の船は大破、完全に沈み、もう一隻も船底を見せる有様であった。

 操舵を誤り激突して二隻も大型の船が沈むものだろうか?

 私には海も船の事もわからない。

 ただ、嗤う彼らを感じると、何も知らずとも想像はできた。

 二隻の船は陸に引き上げるらしい。

 どこの船籍かとニルダヌスが町の者に聞けば、既に色々と話が回り始めており、沈んだのは二隻ともコルテス公の船とすぐに知れた。

 他にも詳細な噂話とも言えない、アッシュガルトの話が耳に入る。

 皆、城塞の中の者にしてみれば、不穏ではあれど他人事。

 噂話の良い種だ。

 種をもらって植えてみれば、噂というより見たままの事。

 下に出かけた者が見て聞いた話だ。

 モンデリーの男達を捕まえて聞いたらしい。

 中々に噂好きというより、どうやら商船員も話す理由があったようだ。

 どうして城塞がいつもより大げさに兵をだしたのか、という理由を広めたかったのだ。

 あまりの大破に残骸を残せば、後の他の船の航行に差し障りが出る。

 そこで船をできる限り陸に引き上げる事となった。

 引き上げるのは東公領の兵士の仕事である。

 そしてこれもまた、いつもどおり揉めに揉めた。

 略奪を優先する兵士と救助を優先するモンデリーの者とでだ。

 口を出すな手を出すなと言うが、領兵はもろとも船と沈みそうになる有様。その後に生き残りを探すモンデリーの邪魔をするわで一時、引き上げどころではない騒ぎになった。

 主に、モンデリーの商船員達が領土兵を魚の餌にすべく、海に叩き込んだからだ。

 仲裁の城塞の兵士も領土兵の者も、本気のモンデリーの船団員が暴れて手がつけられなかったのだ。

 喧嘩両成敗の不問となったが、アッシュガルトの地元民も含めて、領土兵への不信感が増したのは言うまでもない。

 欲をかきすぎ船ともども海の藻屑になりかかった領土兵だが、沈んだ場所が特に難儀な場所だったのも確かだ。

 なにしろ、荷物も死体も一切があがらない。

 陸地からほど近い場所だと言うのにだ。

 そこで領土兵とモンデリー双方の船に城塞の兵士も乗り込んでの捜索。

 それと同時に船の引き上げと、いつもよりも大事になったのだ。


 陸地からほど近い場所で沈み、死体があがらない事は普通なのだろうか?


(判断が甘かったのさ。

 自分たちなら許されるとでも思ったのかもね。

 でも、誰であってもはあるのさ。

 知っていただろうに。

 だから皆、昼間、天候穏やかな時だけ通過するんだ。

 天候が荒れる時期には、船の航行そのものも減らしている。

 季節、天候、時間帯、いずれも経験を積んだ航海士と船員、そして船長がいればを避けられるだろうに。)


 私が言っているのは、死体が見つからない事だよ。


(それもよくある事さ。

 海は広く、深く、見た目だけでは流れもわからない。

 だから、見つからない事は、よくある事さ。

 だから、船員は祈るし、船には様々な仕来りもある。

 船首像が何故つけられると思う?

 あれは船の識別だけではないのさ。

 悪霊を祓う為。

 精霊を宿らせる為。

 魂を導く為などという習慣からきているのさ。)


 よくある話じゃないんだね。


(だんだんと僕のお喋りの裏を読めるようになってきたね。

 まぁ、それでもね。

 よくある話なのさ。)

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