第422話 モンデリー商会 ④

 船の衝突から二日後。

 教会を訪れる者がいた。

 アッシュガルトに駐留する、東公領の領土兵であった。


 ***


 助けられた船員は、七名。

 潮流の所為か、死体があがらない。

 陸地からほど近い場所だが、海中からは人も物も発見できず。

 半壊した船に残っていたのは、この七名のみだ。

 そしてその生き残りも、口のきける状態ではない。

 生きているのが不思議という重症者だ。

 唯一口のきける航海士が言うには、何か硬いものに衝突した後、船が軋んで大破したという。

 船同士は距離を保っており、操船に誤りはなかった。

 夜間とは言え、船同士が衝突したのではないと主張した。

 どれほどの人が海に消えたのか。

 二隻は外洋船である。

 大型の商業船であるが、最新の物であった。

 その為、大幅に乗員数も少ない。

 少ないと言っても、一隻五十名から六十名。

 本来なら死体も上がろうと言うのに、未だに船の破片しか見つからない。

 いったん海底に沈んだ死体が流れに乗り、浜に打ち上げられるには時間がかかる。

 もしくは外洋に流されたのか。

 そもそも事故の原因がわからない。

 船の座礁にしては、船の破損も人の怪我も激しすぎるという。

 その生き残りは、アッシュガルトの港近く、小さな集会場に収容された。

 アッシュガルトには、神聖教会が無い。

 助かった船員は、コルテス公の船であったが、船員は地元民ではなかった。

 その殆どが神聖教徒である。

 故郷に送還するまでに、教会で預かる事も吝かではない。

 だが、今回の事故の調べもあるが、船員の殆どが動かせる状態ではなかった。

 そこで城塞に巫女が入ったと知り、東公領三領主の領兵が来たのだ。

 もちろん、城塞に領土兵が一人で入る事はできない。

 領土兵と共に、今回の事故の処理にあたった、モンデリー商会の商会員も一緒である。


「そこなばばが巫女とやらか。

 我々が世話する義理もない。面倒を見にいつ来られる?」


 と、高圧的に言い放った男が次の瞬間に喉輪をされて宙吊りになった。


「何寝ぼけた口聞いてやがる、先ずは礼儀を教えねぇとならねぇようだな。

 神の御使い様には、最初に頭を垂れるのは、ガキでもわかる道理だ。

 況や神様ぁ信じちゃおらんでも、年長者には礼儀を尽くすのがぁあたりまえじゃぁ。

 それとも自分のおっかさんにもそんな口を聞くのか?

 そんなぁ口はいらんよなぁ舌を引っこ抜いてやろうか、このど阿呆がぁよぅ。ほれぇ、頭ぁさげぇ!」


 そして宙吊り後に、教会前のぬかるみに叩きつけた。


「申し訳ございませんでしたぁ巫女様。

 この阿呆タレはぁ、東のちょっとしたぁ町の者ですがぁ。物を知らねぇ屑ですんで。

 後で、ようよう言い聞かせますんで、ご容赦ください。

 まとめ役なんぞと偉そうに言っとりますが、コイツはコルテス公爵様のところの者じゃぁございませんでぇ。

 このあたりの青犬はぁ、躾のなってねぇ山の者ばかりですからぁ。申し訳ねぇ」


 と、いって白目を剥いている男を片手で持つとモンデリーの男は頭を下げた。

 公王の船乗りは、どうみても海賊の親玉のように見えた。

 クリシィが思わず一歩後ろに下がったのは、当たり前である。

 その反応に、モンデリーの男は慌てて掴んでいる男の頬をはった。

 起きて挨拶しろというが、巫女様が更に一歩後ろに下がったのは言うまでもない。

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