第406話 屑入れ ⑦
笑顔の余韻が消えると小さな暖炉の炎だけが残った。
ビミンは、私が病気で死ぬのではと思っているようだ。
私が小柄で、北の人間らしく肌色が白いのもある。
咳が残っているのも、気がかりなのだろう。
先に亡くなった神官と同じ、死ぬのを恐れていた。
言わずとも、わかる。
困ったという感情。
貴女に死なれたら困るの。
という感情は隠しても伝わった。
だから寒くないか、お腹がすいていないかと終始気になるようだ。
嫌な目にあったのだろう。
神官が死んで、誹謗中傷を浴びて傷ついているのだろう。
誠意を悪意だと詰られ、痛かった事だろう。
それでも世話をやくのは、彼女が意地でも間違っていないという主張だ。
恐れと意地。
人と関わるとは、傷つくことも含まれる。
勇気と根性もあると思う。
関わらないという選択もあるのだ。
それをしないのは、ビミンがいい子なのだ。
いい子、皮肉ではない。
優しいのだ。
厄介ね、困るのよ。と、思いながらも世話を焼き話しかけるのは、元から世話焼きの優しい子なのだ。
私も事情がなければ、友だちになりたい。
でも、それは駄目だ。
優しい彼女が傷ついたら、私も痛いのだ。
(大丈夫さ今以上、あの娘が不幸になる事はないさ。)
さてと、屑入れに向き直る。
暖炉に火もはいったので、不要な物は燃やしてしまおう。
そして私だけに出される間食の菓子、ならぬ軽食を食べ切れるように少し動かなければ。
お残しは、きっとビミンのお説教になる。
***
最初に出てきたのは、領収書だった。
薬代のようだ。
何気なく目をはしらせる。
炎症止め、それに胸の薬、咳止め、解熱剤等、亡くなった神官様のだ。
すでに支払済であろうが、クリシィが不在の間の決済を確認中だ。
手近にまとめて重ねる。
数枚は、本神殿への連絡の下書きや書き損じだ。
書き損じは再利用ができるだろうかとも考えたが、いずれも下書きに何度もつかわれたようだ。そのまま火にくべる。
小さな屑入れにしては中身が多かった。
これもきっと何を言われるかと手をつけなかったからだ。
そして手元には、行き場の無い数枚の紙が残った。
亡くなった神官様には塵であろうが、捨てて良いのか判別がつかない物だ。
私は、その一番上に乗る白紙を取り上げた。
が、確実に増えている。
妄想なら良いのだが。
未だ が、少ない為、気がついた者はいない。
昔からいる者とは違う。
彼らは容易に見分けがついた。
けれど は、手遅れになってからわかる。
がどのように増えるのか、その原因を調べなくてはならない。
私の力では視る事ができない。
真名に変化が無いのだ。
君は信じないだろうが、既に と は手に落ちた。
私が名簿を見つけるまでは、軽挙妄動は控えて欲しい。
内地の寺院、僧侶の方々三人と従者数名とのつなぎはどうなっている?
引き続き..
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