第14話 無音の世界
壁の裂け目は、自然に崩れたものだ。
平らな場所など無く、崩落した岩が散乱していた。
しかし、足場はかろうじてあるので、馬を引いて進む事はできた。
剥き出しの地層の壁を通る。
すると、不意に吹雪の音が消える。
自分の息遣いと
男達の武具の擦れる音がよく聞こえた。
吹き込む空気の流れは、不思議と音をたてなかった。
外からはすり鉢状の穴を想像するが、中は薄暗く壁沿いに道が
覗き込むには深く、足場の
ただし、天井に開いた穴の縁は、屋根のように張り出している。その影になる足場は乾いていた。
そこから眺める中心は、光と雪が舞っている。
穴の底は闇に包まれているので、見える空が、ことさら白く見えた。
そのまま人馬は、足場が比較的広く、休めそうな場所まで進んだ。
螺旋を三回ほど下った位置で、あの裂け目は既に遥か頭上だ。
土壁に背を預け、人も馬も一息ついた。
酒瓶を片手に、頭目がさっそく私の側に来た。
他の男達は、騎馬の具合をみたり、自身の荷を点検したりと、凍えた体を解している。
私も流石に疲れたので、背嚢から飴を取り出すと口に含んだ。
「ここは何だ?」
差し出された瓶を受け取ると、飴を噛み砕きながら、一口含んだ。
強烈に度数が高い。それなのに雑味も無く、深い香りは果物のような爽やかさだ。
噎せそうになるが、一口で体が温まる。
凍死を避けるのに、味わったことも無いような上等な酒を用意する。
野蛮人に見せかけて、こいつは貴族かもしれない。
蛇の兵隊で貴族。
当然といえば当然なのか?
田舎者にはわからないが、警戒を頭の隅に置き、質問の答えを考える。
「御客人、どこまで行くつもりか?」
瓶を返しながら、逆に問いかけた。
「この穴の底には何がある?」
何も言う気が無いのだろうか。
「後、四周りほど降りると、地下水の流れがはしる底につく。この辺りの土着宗教の名残で、石碑と大石の祭壇がある。それだけだ」
実際は見たことがない。
ここに来ることも、穴に降りることも、村の皆に止められていた。
今回だけが例外で、初めての事。
「その先は」
「行き止まりと、聞いている」
「何だ、お前、この先は知らねぇのか」
再び、酒を呷りながら、男は穴の縁へと行った。
「神を祀っているんです。
祭祀の者か、村の年寄りしかここには来ない。」
祟られるから。
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