第15話 囁き

「ふーん、薄暗くて見えねぇな。どっちにしろ、底に降りるんだ、まぁいいや。

 おぅ、お前ら、準備しとけ」


 それに男達は頷いた。

 それぞれ身動きしやすいように、最低限の防寒具になった。


「御客人、物騒なことになったら」


「物騒ってのは何だ」


 男はニヤニヤと笑っている。


「逃げてもいいが、帰りの道を案内しろよ。そうしねぇと、お前の村がなくなるからな」


 男が背を向けても、ニヤニヤ笑いが、あたりに漂っているような気がした。


 ***


 それから二刻ほどで、底がうっすらと見える場所まで降りた。

 風が吹き込まないだけで、気温はずっと高い。

 そして直接濡れないので、歩く内に体が温まってきた。

 自ずと頭目が先に立ち、私は後ろになった。

 逃げられないように、最後尾にはさせてもらえなかった。

 頭上の光りが弱くなっている。

 薄暗い穴の底には、黒い流れがてらてらと蠢いていた。

 薄ぼんやりと何か灰色の影がある。

 多分、あれが巨石の祭壇だろう。


「灯りだ」


 男のつぶやきに、従者と勝手に区別していた二人が動く。

 幅広の剣を抜くと、音を消して先に進む。

 不思議と武具の音も足音も無く、その姿は滑らかに素早い。

 そして残りの男達も、頭目の前に踏み出すと、綺麗な動きで先に歩きだした。

 私と頭目、それに残された馬だけが、その場に留まると、闇に向かう背中を見送った。

 静かで素早く、そして大きな彼らは、恐ろしいまでに統率されている。

 領主兵などの地元の気安い男達ばかりを見ていたので、あらためて恐ろしくなった。

 暫く、目前の闇を見ていると、不意に短い口笛が聞こえた。


「歩け」


 頭目が私を促す。

 馬も従順に続き、私達はゆっくりと闇に向かった。

 足元が土から砂利に変わる。

 濃い闇に目が慣れてくると、螺旋の道がいつの間にかなくなり、底に着いていた。

 巨大な灰色の影が、闇の奥にある。

 あれが祭壇か。

 その更に奥に小さな光りが見えた。

 闇に押し負けているのか、光りの側だけ浮かび見える。

 祭壇を迂回し、奥に進んだ。

 馬だ。

 馬が数頭と小さな角灯が、側の石の上に置かれていた。

 男達は辺りを調べているのか、剣を納めて動いている。

 私は、薄ぼんやりと照らされた、馬の側によった。

 どれも金のかかった装備をつけている。

 気性も良さそうで、こんな闇の中に放置されてさぞや...


 否、角灯を灯し馬を見ていた者がいたはずだ。

 放置なぞ、農耕馬でもない貴族の持ち物を放置するはずもない。

 私は、背嚢から小さな角灯を取り出した。


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