第16話 囁き ②

 私は火石を取り出し、角灯に火を入れた。

 小さな物だが、ここに置かれた油の切れかけた物よりは明るい。

 馬は余程心細かったのか、新たな馬に寄り添い固まる。

 辺りを照らしてみると、巨石を囲む壁も岩盤のようだ。

 冷たい色の岩がゴツゴツと壁を作っている。

 従者の一人が、地面から木切れの端を見つけた。

 それに布を巻き付けて、懐から油瓶らしき物を取り出すとふりかけた。それをこちらに向けてくる。

 無言だが、その意図はわかるので、角灯から火を移した。

 格段に辺りが明るくなる。

 小川とも言えない湧き水の流れが、底の中央にある。

 岩盤の亀裂から始まり、地面の砂利にしみて消えていた。

 巨石の祭壇は、大人がよじ登れるかどうかの高さで、中央には夏に置かれた供物の残骸が残っていた。

 穴はその祭壇から少し外れているのか、雪の湿り気は手前の水の流れに消えていた。

 気になるのは、壁に点々とある黒い跡だ。

 ぐるりと視線を巡らすと、染みなのか何かの模様なのか等間隔に黒い色がついていた。

 祭壇を馬のいる方から反対側に回る。

 岩肌に、黒い色。

 煤か?

 臭いもしない。

 私が首を傾げて見ていると、頭目が側に来た。


「おうあったぜ、とうとう本性あらわしやがった」


 男の言葉に、他の男達も走り寄ってきた。


「統括が言ってた通りだ。とんだ英雄様だぜ」


 男がゲラゲラ笑うと、男達は笑わずに肩をすくめた。

 何の話かわからない。


「坊主、ここまで良く働いてくれた」


 で、始末されるような口調に身が退ける。


「大丈夫だ、お前が居なけりゃ、森から出られねぇ。それにお前は良い子だろ?」


 完全に悪人の笑いだ。


「御客人」


 その先が続かず、私は言葉を探した。

 鷹の爺と御領主様はどこに連れて行かれたのですか?

 そう、聞ける雰囲気ではなかった。


「ここは何かの祭壇なのか?」


「..ここは森の神を祀っている。

 が、神はここには居られない。

 ここは不浄の地だ。」


 私の言葉に男は、ほうほうと大げさに頷いた。


「御領主と行かれた兵を追っているのか?」


 男はニヤニヤと笑っている。


「馬が残ってる。どうしてこんな場所に」


「なんでかねぇ、でだ、小僧、こいつは何に見える?」


 何に?

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