第324話 魂の底 ②

『あっお前カーン、疑ってやがるだろう?

 まぁ聞けよ。

 お前たちも知っているように、神官は真名を視る事ができる。

 血筋、種族、そして真名にちなんだ隠し名を子供に授けたりする。

 この儀式の時に視ているのは、魂の形って奴だ。

 魂の形は、種族によって違う。

 神官の名付けは適当に言ってるわけじゃない。

 何種の何の血が混ざりし、何々の子って言うのは、まぁ訓練して経験積んでの見極めなんだがな。

 じゃぁ同じ種を視たことも無い、貴重な種族がどうしてわかるのか?

 訓練してても、わからない場合もあるのか?

 まぁそこが神官の才能技量の差って奴で、えっ、自慢は聞きたくない?

 ちぇっ、つまんねぇなぁ、わかったよ。

 お前たち獣人の場合、やはり視る才能に優れた者じゃないと難しい。

 それこそ色とりどりの絵画を眺めるみたいなもんだ。

 絵の具の混ぜ具合を視るようなもんだって言えばわかるか?

 ところが、この子の場合は逆に、間違えようがないんだ。

 知識として知っていればな。

 はぁ、じゃぁどうしてそんな貴種を発見していなかったのか?

 記録はされるが、今、神殿では彼らの存在を明確にしないようにしている。』

『どういう事だ?』

『精霊種を騙る者や欲しがる者がいるからさ。

 真名は記録されるが、亜人としてだ。』

『彼らの存在も、絶滅理由なぞも聞いたことが無い』

『政治的な情報統制があった。

 俺達の年代は蚊帳の外だ。

 親の年代が当時の事を知っている。

 まぁそれも色々あってな。それはまた、別の話だ。

 ともかく、この精霊種の魂の形は、どんな神官でも見れば違う事がわかる。

 なぜなら、お前たちが絵画なら、この子は文字なんだ。』

『文字?』

『イグナシオ、お前が毎朝毎晩、向かい合って祈っているのは何だ?

 そうだ。

 そして祈りの時の仕草と同じ奴が神殿や教会に飾ってあるだろう。

 霊廟にもあるな。

 そうそれ、神の言葉である。とか言っちゃってるアレな。

 真名がそれでできているんだ』

『真名が言葉なのか?』

『正確には、古代語と呼ばれる神言が精緻な配列で視えるんだ。

 古代語も彼ら精霊種が使い伝えたと言う。

 己を形作る物で無知な生き物に知を与えた。

 まさに神の子って訳だ。

 だから神官は例外なく視える。

 で、本題だ。

 その子を視れば、調和し完全な配列を為す言葉が並ぶ。

 まさに精霊種の子だ。

 ところがそこには二重三重の、見事な呪いが巻き付いている。

 見事だ。

 古い神の、例えは悪いが美術品のように絡みついている。

 荒縄なんぞが絡んでいるのではない。

 魂の言葉ひとつひとつに繊細な茨の蔦が巻きつている。

 お前たちの呪いは、魂の表面に巻き付いているだけだ。

 なのにこの子は、魂そのものが呪われてしまっている。』

『どういう意味だ』

『お前らの分まで、古い神に魅入られた。

 呪いであり寵愛を受けたのだろう。』

『どういう事だ?』

『正確には、お前らの呪いを肩代わりしている。

 お前らが死ねばよかったのにな。本気まじで、お前ら死ねば?』

『それが神官の言う言葉か』

『割と本気ね、まぁそれで呪いは解けそうもないから諦めるけどよ』

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