第323話 魂の底
だとしてもエリのことだけは、探して無事を確かめねばならない。
それが終わったら、そうだ。
終わったら、もうどうでもいいんだ。
グリモアは、私が疲れ果てるのを待っているのだろうか?
私が主導権を譲ったらどうなる?
魂は宮へとたどり着く。
けれど、残された肉体はどうなる?
利用され悪事を始めたらいやだ。
先程目覚め時、死ぬのだと思い浮かんだのは、寂しさだった。
寂しくて怖い、それだけだった。
残された体を慮る余裕はなかった。
ふと目の前の神官を見て、良い考えが浮かぶ。
神官ならば、私がグリモアに支配されても、土にかえせるのではないか?
魂は売り払われている。
残りを穢れた行いにつかわれぬように、この神官に頼めばいいのだ。
そんな曇る思考に囚われて、私は動きを止めていた。
するとカーンは私を抱え直し、何処からか調達した刺し子の掛け物で私を包んだ。
「ここは寒い。天幕に移ろう」
カーンはそういうと私を腕に乗せて立ち上がった。
「手洗いは平気か」
それに私は力なく頭を振った。
「横になるのは、もう少し我慢しろ」
「エリを探さねばなりません」
「大丈夫だ。行方知れずは兵士が探す」
兵士では見つけられないだろう。
「お前の所でよいな?」
神官は肩を竦めた。
それが肯定なのか否定なのか、見分けがつかなかった。
後ろに神殿騎士も続く。
風花が雪に変わりそうだ。
空模様が暗くなっていく。
抱えられると暖かく、薬の所為か瞼がさがる。
そんな場合ではないのに、体が言うことをきかない。
「私は、獄に繋がれるのですか?」
無意識に問うていた。
「何故、そう思う?」
「私は、ふつうじゃないから」
「ふつうって何だ?くだらねぇこと聞くな」
「私は」
言葉が続かずに、目を閉じた。
***
『直に見るのは初めてだ。これでも王都生まれの籠の鳥だ。
あぁ正直、俺は感動しているよ。
お前たちにはわからないだろうな。まぁいい』
重く沈む体と意識。
眠りとも気を失っているのかも分からない。
そんな闇の中で声が聞こえた。
『北が凍りついた原因は、彼女らを殺そうとした奴がいたんだよ。
彼女らを絶滅させようとした。
それ以来、彼女らは俺達を見放したと言われている。
そんな話は聞いたことがない?
お前は知っているだろう?』
『はい、
聞き覚えのある声が答える。
いつもの不機嫌な感じがない。珍しいイグナシオの真面目で緊張した声だ。
『彼女らは俺達と同じぐらい、いや、もう少し長生きだ。
体はまだ、育っていないんだろう。
それでもお前さんら獣人とは違って、老けもしないだろうがな。
そうだよ、俺のような腐れた長命種とは違う。なにしろ、神の力を分け与えられた最初の子だ。
ありがたがれよ、神聖教でいう神の使い、精霊種だよ』
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