第198話 フリュデンへ ④

 レイバンテールの今の身分は、侯爵に雇われた役人だ。

 その仕事の傍ら、商家を営む。

 そんな侯爵のが治めるフリュデンは、先住民の城塞があった場所だ。

 そのまま入植者が入り、小さな街をつくった。

 トゥーラアモンの半分も人口は無いという。

 ただ、そのトゥーラアモンと同じく美しく整えられた古い街だ。

 そしてトゥーラアモンに流れ来る川は、このフリュデンが水源である。

 街に向かうとしぜんに、その流れを遡る事になる。

 サーレルは時折、トゥーラアモンの方向と川に目をはしらせた。

 私と視線が合うと、相変わらず本意の見えない笑みを浮かべる。

 この笑みは、カーン達と共にいる時に浮かべる微笑みとは違う。

 その区別がついてくると、彼は少しもトゥーラアモンでの滞在を楽しんでいない事がわかった。

 ずっと悟られぬように警戒をしていたのだ。

 確かに、内乱直前の場所にお気楽に過ごせる訳もない。

 ましてこれから、その敵対勢力の方へと向かうのだ。

 本来なら、馬鹿な話だ。

 それから先を行くラースを見て思う。

 何故、今、侯爵から離れる?

 私兵の長であろうラースが、侯爵の側から離れる。

 もちろん、最初からわかっている話だ。

 私達は餌で、敵対勢力へと近づく。

 どのような態度を相手が示しても、それはそれで侯爵側としては対処が楽になる。

 恐れて逃げる、恐れて襲いかかる。

 どちらでもいいのだ。

 侯爵は死ななかった。だから、

 どう動いても、ラースが最後の慈悲を相手に与えようとしても、侯爵は相手を叩き潰すだけなのだ。

 そしてそれは、相手も理解しているだろう。

 相手が死ななかったら次は何をする?

 私はそこで考えるのを止めた。


 本当に怖いのは、怖い事は?


 私がするべきは、エリの事だけ。

 私ができるのは、小さな事だけだ。

 奥方に目通りし、エリの身元を確かめる。

 成り行きによっては、エリを連れてさっさと逃げ出してしまえばいい。

 サーレルに関しても問題ではない。

 彼は彼の仕事をするだけだ。

 ほら、少し整理できたぞ。

 そうして私達三人とラースと二人の侯爵の兵士で向かう。

 その間に段取りを想像する。

 奥方の使用人に私達は会う事になる?

 ラースはレイバンテール氏と面談だ。

 サーレルはこちらにくるのか?

 まぁ一応確認の為という大義名分がある。

 それから..

 川の流れ、美しい森、時折見える岩山、緩やかな傾斜を上ると見えた。

 城塞跡フリュデン。

 見て、予想以上の景色に息を飲む。


「さすがトゥーラアモンに引き続き、歴史を感じさせる佇まいですね。美しい景観はさすがです。おや、どうしました。ほら馬が止まりましたよ。二人共、何を驚いているのです?」


 本当に怖いのは、怖い事は?



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