第301話 幕間 呪われし男 ②

 チンピラ口調で現れた男は、今日も絶好調だ。

 夕方の祈祷が終わるまで、応接室で待っていたカーン達は、祭司長とお付きの入室に礼をとり迎えた。

 これで身なりも破落戸のようだったら、誰も中央大陸一の祭司とは思うまい。

 年配の巫女からお茶を受け取ると、祭司用の豪華な衣装から、黄金の滝がこぼれ落ちる。

 長身痩躯に黄金の髪。

 長命種であり大公の血族。

 コンスタンツェ・ハンネ・ローレ殿下とは血筋から言えば親戚である。

 だが、こちらは健康そのもので、イカれているのは性格だけである。

 黙って祭祀を執り行えば、信徒は有り難さに涙するだろう。

 喋らなければ。


「あぁ、お前らあれだ。やっぱり駄目だったか」


 ジェレマイアは、目を通していた概要が記されている紙を放り出すと、男達の前に立った。


「今は査問会まで足止めだ。首が揃わなかったからな」


 それに祭司長は、ゲーッという感じで舌を出した。


「俺がそんな話に興味あると思うかよ?

 いつもの根回しは言われなくてもやる。

 こいつの母親は、俺の顔が好きだからチョロいもんよ」


 イグナシオが流石ジェレマイア様です。などと馬鹿な合いの手を入れている。


「俺が言ってんのは結局、お前、俺の忠告を聞かなかっただろって話だよ。

 腐土封鎖でクソ忙しい時に、遺物掘り出して渡したのによぅ」


 それまで審問用の書類に筆を入れていたカーンは、意外な言葉を聞いたと顔をあげた。


「あ〜ぁ、直属隊でこれだ。異端審問官やら憲兵が消える訳だよなぁ」

「どういう事だ?」


 凍る空気にお構いなく、祭司長はやれやれと大げさに顔を手で覆った。


「お前ら呪われてるよ。

 それも盛大に、強い力でだ。

 ちょっと見ただけでもわかるぜ。

 古くて強大な神の匂いがする。

 俺が知る気配じゃない。

 おっかねぇなぁおい、この天才の俺が言うんだ間違いない。

 お前らみたいな不信心者なら、やってくれると思ったよ。

 間違いなく踏み抜くってな。

 普通の神経じゃできねぇ罰当たりをしたんだろ?」


 驚きよりも真偽を疑う男に、彼は指の間から目を覗かせてゲラゲラ笑った。


「嘘じゃねぇよ。

 俺の主は若い神だって言われてる。

 今の人間が奉じている神だ。

 異教異形の神々をいっくら国で否定しても、いるもんはいる。

 俺だって、いるものを無いなんて罰当たりをしたくないさ。

 それにな親神ってなもんで、その古い神々こそが、今の神の元なのさ。

 まぁ話がそれたが、智者の鏡はそれなりに役立ったようだな。

 お前ら生きてるし。よこしな」


 差し出された手のひらに、小さな金属板を戻す。

 それを撫でてから、ジェレマイアは明かりに翳した。


「うーん、こいつもだいぶ力がこもってるな。

 どんだけ気色の悪い場所に行ったんだよ。

 つーか、これも呪われてんぞ、おぃ。

 おやっさんに渡しといてくれるか?」


 呪われていると言われて、室内の男達は微妙な表情だ。

 お茶を饗した巫女は、如才なく進み出て呪物を受け取ると退出する。

 続きの話を聞かずに一緒に退出したいとカーン達も思うのだった。


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