第300話 幕間 呪われし男

 狂信的にもなれず見かけよりも慈悲深く中庸。つまり資質は十分だ。けれども当人も含めて関係者は、もわかっている。

 そこで政治、内部闘争からは一応の距離がある儀式職に着けた。

 神を体現する者としてだ。

 本人は、神なんぞの広告塔ではないと公言している。

 無駄なあがきだ。

 魂の有様を見、不浄を見極め、人ならざる物を聞き知る者。

 彼を疑う者は信徒にはいない。

 カーンにしてみれば、それが詐欺であろうとなかろうと、多くの人々を従える権力者というだけの話だ。

 もちろん、今の世の中、死人が喋り動き回るのだ。

 神というありがたい薬があるのは喜ばしい限りである。

 救い主はいないだろうが神はいる。と、するのが今のオルタスの主だった考え方である。

 カーンにしてみても、神までは否定しない。

 神の威光をかさにきた、与太者が信じられないだけである。

 その祭司長とも、長い付き合いだ。

 邂逅は、オルタス南部全土を襲った疫病と浄化作業によって起きた多くの死を弔う集まりでだ。

 誰しもが救いを求めた。

 神ではない。

 揺らがない価値観と道筋を与え、見捨てないとする姿勢を示す指導者をだ。

 カーンが死を与え全てを灰にし病を遠ざけたとしても、傷ついた人々を救うには程遠い。

 彼ら国教の勢力を拡大させる結果になったとしても、手を結び生きていかねばならなかった。

 だから、ジェレマイア自身が自己肥大した権力者になってもおかしくない。しかし、当人は生き神に祭り上げられる事を拒絶している。

 その態度で、逆に生き神認定になりつつあるのは皮肉なことだが。


『いやお前、何考えてんの?

 俺、権力握ったら、阿呆共の屍積んで全土で祭をしちゃうよ。

 んで、異端者狩りってお題目で、神殿の内部粛清と気に食わない貴族の土地で領民蜂起とか扇動するけど。

 夢が広がっちゃうね。

 あれ、権力握っちゃう?

 大公とか元老院の老害とか、公開で磔刑火刑とか?

 公王ならノリノリで火炙り名簿くれそうだし』


 その過激な生き神様は、長命種人族だ。

 教養もあるが、場末の酒場で獣人と朝まで飲むのが楽しいという性格をしている。

 過去、傀儡にしたてようと次期神殿長指名をされた時も。


ミ・リュウ王都と貴様らも、背教者の豚として焼くぞ』


 と、言って相手を激怒させたそうだ。

 だが、もうその頃にはジェレマイアの支持層が過激派となりつつあったので、不問となった。

 その頃とは、元宰相の西方辺境伯が後見に正式になった頃。

 相手は前任の除名除籍された神殿長派閥だ。

 そして不問となった代わりに、一級どころか特級の審問者であるジェレマイアは、最上級の本神殿第一位祭司長という役職になった。

 他に選択肢がなかった。

 彼が最高位の本神殿第一位神殿長になると都が火事になるからだ。


「よぉ、随分とシケた面してんなぁ〜お前ら。んで、今日はどうしたんだよ。

 懺悔には大量のお布施をよこせよなぁ金持ってんだろぉ?

 お祓いその他は要相談だ。

 俺は高いからなぁ〜ってアレか、あの仕事帰りかぁ」

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