第762話 それが愛となる日 ⑩

 城塞の内部を把握するには、方向感覚以前に、階層を示す壁石を知らないと無理だ。

 滞在は短いだろうし、自由行動のできない場所を覚えるのは無駄だ。

 と、最初から諦めて、転ばぬようにとすり減った敷石の通路に意識を向けた。

 段差もあるし年月とともに不揃いになった石の凹凸が、獣人以外の人種には難儀である。

 それもあるからカーンは私を担ぐし、オービスは手を引く訳だ。

 そんな息を切らす私をハラハラとしながらも、相変わらずオービスは足並みを合わせてくれていた。


「野営用の刃物、も選ばにゃならん。

 足が治れば、弓、を選ぶんじゃがな。

 早う治るとええのぅ」


 無意識だろう南部言葉になっている。

 だが、グリモアを得てからあらゆる言語理解が転写されているので、実はオービスに言葉を合わせる事ができる。

 不信感を与えるので、そのような事はしない。

 まぁサーレル辺りは、古語にも通じていると知っているので、いよいよ身元に不信感をもっているだろう。だが、それも精霊種である事で有耶無耶になるといいが。

 また、繁華な通路を折れ今度は天井が高い場所に出た。

 どうやら武器に関する場所に入り込みつつあるようで、手続きといくつもの扉、そして兵士が配置されていた。

 その奥の奥、鉄格子と完全武装の兵士が守る扉の奥へと進む。

 やはり皆、私を見るが問いは無く、オービスには頷くだけだった。


「この奥は、注文品、の受け取りと、火薬を扱う。

 スヴェンは、もう、下に行った、ろうが、ここで受け、取って、いったはず」


 通されると無骨な石壁から、急に滑らかな表面の通路となる。

 今までのむき出しの石や岩の感じが、急に陶器のようにツルツルとしていた。


「ここから、爆発に耐え、られる強度、の壁になる。

 滑る、から、走っちゃなら、んぞ」


 空気の流れを作る穴が、等間隔で壁にある。

 火気は見当たらず、明り取りの窓らしきものから鈍い光りがさし、その他には、奇妙な硝子の筒から光りが漏れていた。


「それ、は、蓄光石だ。

 火の気を、嫌う場所、で使う。

 薄暗く、て、も儂らに、は平気だ。」


 歩きながらシゲシゲと見る。


「光り、石は、毒がある。

 自然界で目にしても、わからない正体の物には、手を、だしてはいかん。」


 おぉぉ、という顔をしたらしく、オービスが笑う。


「これ、はだな。

 装飾品として、売られる、もの、だ。

 安全、だの」


 又も壁沿いに長机が並んでいる。

 今度は端からではなく、一番奥へと歩く。

 武器を求める人達で、通路は賑わっていたが、最奥には誰もいない。


「火薬、特注品、爆発物。

 官給品以外の、品を、扱う、窓口だな」


 私の表情を見て、彼は慌てて補足した。


「儂の、武器は、少し手を加えた、からのぅ。

 お前さんは小さいから、特別に、頼んだ。

 狩猟にも、使える、短刀。カーンが」


 カーン?


「お前さんは狩人だ。

 弓が駄目なら、役立つ物が、喜ぶ、だろうと、な。

 まぁ何に使ってもいいような物を、選ぼう。」


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