第761話 それが愛となる日 ⑨

 下着も含めて三着を適当に選ぶ。

 支給品を出してくる人物は、少し年配の男性で種族は一見するとわからない。

 まばらな白髭の御人で、片方の目を眇めながらジロジロと見てくるが、多分、体の大きさを見ているのだろう。


「その、子は、喉を痛めておって、喋れん。

 なるべく、新し目ので、頼む。

 そう、暗い色味では、のうて、明る、めじゃ。

 体も傷めておる、から、柔いもの、でな。」


 オービスの言葉に、揃えた品に更に追加で保温の為の下着が加わる。

 私が選んだ物も、これとこれがいいと交換された。


『おっ、ちょっと可愛らしい感じの物だね。小姓服かな?

 この男、できるな』


 茶化すんじゃない。


「脚絆、手甲は隣りだ、伸縮性のある布帯を防具の前に巻くといい」


 と、ぼそりと告げられ布帯も渡される。

 そしてその三組とは別に、着替える分を見繕い、行李に入れる予備も選び合計五組分を大袋に入れて手渡される。

 それはひょいっとオービスが受け取り、隣へと移る。


「旅装用の装備、だの」


 兵士なら、目的に合わせての武装を選ぶわけだ。

 私の場合は体の保護になる。

 手袋、皮の手甲、脚絆、防水の靴。

 揃えていく内に、村の毛皮の衣類を思い出す。

 温かで見栄えもよかった。

 また、次に移る。

 野営の毛布、細々とした身の回りの品。

 通路端にたどり着く頃には大荷物になっていた。

 私も少し持とうとすると、大きな手が頭をぽんぽんと軽く押さえる。

 どうやら、荷物は紳士として男が持つという持論があるようだ。

 そして足元の不自由な子供に、大荷物をもたせるなど論外らしい。


「今までの、荷物も、行李に入れる。

 後で着替えたら、まとめて、おく、ように」


 ゆっくりと歩く。

 歩みを合わせてくれるオービス。

 私の世話をやいてくれているが、本当はスヴェンと共に仕事だったのではないか?

 と、つい顔色を見てしまう。

 忙しいだろうに、申し訳ない。


 そんな私の視線に、彼はぎこちなく笑い返してくる。

 太い眉と丈夫そうな歯。

 慣れれば怖くない、かな。

 まだ、少し怖いけど。

 獅子の鬣のような髪の毛も似合っている。

 特に不定の輩には良い威圧になるだろうし、優しいと気付いた女子供には安心感が伝わる。

 女子供にいつもこうして気遣いをする人ならば、きっと故郷では慕われる人であろうと想像がつく。


「どうした?」


 通路は再び太幅になり、混雑していた。

 端に寄ると、その手のひらに大きく文字を指で書く。


 スヴェン


「あぁ、相棒は、鍛冶場、だ。

 ここ、を出る準備、と、注文品の、得物をな、見に、行った。

 アッシュガルト、の治安回復に、当分、下をウロウロ、するんだ。

 他のもんはぁ、公爵殿と、同行の準備、にな」


 大丈夫?


 と、オービスを指差すと、ニヤッと笑う。


「あぁ、ワシかぁ。

 大丈夫、じゃの。

 それに、ワシから、願った。

 ちょっとな、あるんじゃ、いろいろなぁ」


 言葉を濁して、彼は笑った。


「さぁ、次に、行くぞ。

 足は、痛くないか?

 そう、か。そうか。

 儂の、発音はぁ、中々、良くなくて、聞きづらくないか?

 ほう、大丈夫か。

 お前さん、はぁ、我慢強い子じゃが、大人には、ちゃんと言わんと、駄目ぞ。

 特に、ワシらは、馬鹿、ばっかりじゃからな。

 ん?

 怒らん、怒らん。

 ワシらに付き合わせてるんじゃ、こっちが頭を、下げんとな。

 子供を、脅しつけるような、クズはぁ、男じゃ、ない。

 もちろん悪ガキは、躾にゃならんが。」

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