第357話 幕間 天罰だと思う ②

 つきあわされる身にもなって欲しい。

 神殿の女子棟に入ってからの、投げつけられる罵詈雑言に、冷たい視線。

 年若い巫女から老女まで、巫女という神使えの女性達に塵のように扱われるとは、男として死にたくなる状況だ。

 後でお詫びの金品を積んで、更に労働の奉仕もしなくてはならない。

 そうでもしなければ、二度と神殿と巫女達から塵以下の扱いだ。

 そのオロフは建前上神聖教徒だが、獣人族の神(ナイダ・ハヌス)を信仰している。

 ナイダは賭事色事の神様で、とても気前がいいのでオロフは気に入っている。

 ただし、卑怯な振る舞いと女性に対する無理強いや悪事には厳しい。

 女性に敵対すると(悪女を除く)賭事も命もツキに見放される。

 また、不貞行為も行うとエライ目にあう。

 つまり、オロフは女と名のつく者には、基本手を上げないし逆らわない。

 ツキが落ちて、ついでにあっちも不能になったらたまらない。

 多分、雇い主は鼻で笑うだろうが、ガチで信じている。

 なので神殿の巫女さんを押し退けて、証人に会うのも結構時間がかかった。

 むしろ牢屋や囚人が集められている場所に入り込む方が簡単だ。

 神職のそれも嫌がる相手に怪我をさせないように排除する方が難しい。

 若い巫女さんなんぞ、オロフの顔を見たら悲鳴をあげて、水さしの水をぶっかけてきた。


『心が萎えるっす』


 年季の入った巫女さんの集団と見習いらしき娘たちなぞ、手当たりしだいに物を投げてきた。


『完全に悪者っす、確かに悪者っすね、ひどい』


 外の神殿兵は、連れてきた近衛に相手をさせている。

 もちろん話し合いで、である。

 剣を抜いてはいない。

 意味もなく神殿で剣なんぞ抜いたら、神敵認定されて火炙りされかねない。

 商会からは人を呼ばなかった。

 後で問題になるのは分かっているので、オロフだけが泥をかぶるつもりだ。

 どちらにしろ手早くしないと、本殿から大量の神殿兵がなだれ込んでくる。

 これも仕事だからと、年配の巫女を優しく抱えて適当な部屋に押し込む。

 もちろん相手は手加減無く、オロフを殴り毛を毟った。


『泣きたいっす』


 そしてようやくたどり着いた、巫女の暮らす場所の最奥。

 証人の子供を連れ出そうとして、止めた。

 見るからに弱った様子。

 何よりも、女だ。

 子供と言っていたので、もっと幼いと思っていた。

 だが、部屋で書物を読んでいたのは少女である。


『これは、終わったっすね』


 子供ならよくて少女なら駄目という理屈もおかしいが、オロフにとっては、もう絶望だった。

 ナイダ・ハヌスは、子供の守護神ではない。

 幸運を呼ぶ賭事や色事の神は、美しい女神である。

 そして珍しくも賭け事の神でありながら、男よりも女、清らかな少女を守護する女神だ。


『女神様、仕事なんでお許し願えませんかね』


 オロフの脳内で女神が首を掻き切る仕草をする。


『ですよね〰️』


 確実に悪人側であることは自覚しているので、想像した女神も辛辣だ。

 元より良くない運気が、どん底に落ちたなぁ、とオロフは内心泣いた。

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