第356話 幕間 天罰だと思う
オロフの実家は、渡りの戦争屋、大規模な傭兵商会だ。
獣人の戦闘種の殆どが真っ当な兵士になる中、例外的になる職業の受け皿である。
つまり、本当に救いようのない者の集団だ。
そんな傭兵集団の大元締めが、オロフの両親が商うゴート商会である。
オロフは、その大商会の何番目かの息子だ。
数年、渡り(傭兵集団を渡り歩いて稼ぐ事)をした後、やはり傭兵が肌にあわない。
と、寝ぼけた事を言い出した息子に与えたのが、このコンスタンツェ殿下の護衛仕事だ。
曲がりなりにも、実力も素性も宜しい部類の商会の息子として、この病弱な殿下の護衛に推薦されたのだ。
『何処が病弱な殿下な訳よ、嘘ばっか。』
十数年も一緒にいると、そこら辺の夫婦より相手の思考が読めたりする。
もちろん嫌な方向でだ。
今回の神殿への不法行為も、審判官の矜持とはまったく関係ないんだろうなぁと、予想がつく。
コンスタンツェは、王家大公に連なる者でありながら、一切の宗教を否定している。
宗教に関わる全てを嫌っていた。
花占いでさえもだ。
憎む理由もオロフは知っている。
ただ、それは世間で言うよくある話だ。
『反抗期?』
複雑な出生と育ちを、この一言で終わらせるオロフもオロフだが、彼にしてみれば、恵まれた者の我儘だ。
その反抗期のおかげで、今回は神殿に不法侵入だ。
だが、雇い主の威光を優先するのもオロフの仕事である。
それに根性がねじ曲がりすぎて、三回転ぐらいしている雇い主を制御できる訳もない。
そこは契約外として、商会長の母親にも理解してほしかった。
神殿侵入で頭部を斧で半分にされたくない。
が、結局母親もコンスタンツェの考えをある程度認めるだろう事も予測してもいた。
彼は別段、神殿に火をつけて回りたいわけではない。
我儘の範疇で事をおさめるだろうからだ。
そもそもこの捻くれた雇い主が、反抗するのは予想がついた。
神殿は、今回のボルネフェルト事件に関して最初から強行だった。
元老院を通しての審判中止。
審問対象として外部機関をすべて神殿の制御下に移した。
祭司長によれば、この度の事は件の状況(腐土)解決の
これをオロフ的には、ぶっちゃけ今回は宗教がらみだし腐土の責任者になってる俺の方が専門家だから手も口もだすなよ。と、いう意味に受け取った。
だが三回転ぐらい性格がねじ曲がってるコンスタンツェには、煽りにしか聞こえなかったようだ。
『煽り耐性低すぎだよねぇ』
とはオロフも失礼である。
きっと煽られたからではないとコンスタンツェも言うだろう。
祭司長とコンスタンツェは親族だ。
血筋は近く、複雑な出生と不遇な育ちはよく似ている。
似ているし、結果、比べられる事もあったろう。
宗教嫌いとしながらも、実は親族こそを憎むコンスタンツェ。
宗教の大家として王、係累に準ずるジェレマイア。
別段対立はしていなくとも嫉妬はある。
つまり、煽られて頑なになり、神殿が保護する元審判対象者に無断接触の愚挙にはしったわけである。
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