第731話 俺は変わったか? ⑤

 差し出した紙は、カーンによって公爵に渡された。


「ありますよ。

 我々が共に東にて暮らす為のでもあります。

 はそれぞれの土地にあり、守護を担っています。

 そして我々もを果たすわけです。」


「それは何の話ですか、何を」


 カーザからの問いかけに、公爵は口を噤んだ。

 公言し広める話ではない。

 彼は儀式頭でありコルテスの宗主である。

 魔導師を妄想と否定はせぬし、領土侵略に不可思議な手段が使われても、それを嘘だとはしない。

 宗主は鎮護の道行きを儀式頭として執り行い、不幸にも早逝した妻も術の糧とし差し出している。

 魔導とは縁が無くとも、呪術に馴染みはあるはずだ。

 公王が墓を経てた事からも、これは王公認のまじないの可能性もある。

 この神事がただの慣例や名目だけの行事ではない証明とも言えた。

 この考えも含めて、これまでの出来事には見落としがある。

 その一つが鎮護の道行きの、だ。

 鉱毒被害がでたから、この術が敷かれた。

 と、考えていた。

 そこからもう思い違いがある。

 この術はもっともっと昔から敷かれていたはずだ。

 鉱毒に対処する前。

 三公爵の土地にそれぞれ儀式地があり、力は流れ続けていた。

 鉱毒の広がりを抑える為に用いられたのは寄生虫である。

 この術は、鉱毒の被害にをしたのだ。

 だから鉱毒以前から、この術はある。

 時期としては、開拓の頃か。

 地鎮の為か?

 水妖を鎮める為か?

 だったのか?


 否定が次々と浮かぶ。

 グリモアには問わないが、知識の開示は今だに続いていた。

 彼らの意見が徐々に私を食い荒らしていく。


 他にもいろいろおかしな事に気がつく。

 このような巨大なは何だ?

 水妖を封じるため?

 鎮護の道行きにそんな強制力はない。


 何かの目安ではどうか?


 この鎮護の道行きが正しく巡っている限り、この東マレイラでは凶事はおきない。

 三公爵は、この術が正しく巡っている事が安心材料だった?

 例えば、川の水位計のような役割だとしたら?

 鎮護の道行きを断たせるのが目的ではない。


 グリモアが言っていた事が思い出せない。

 目的は体を温める為の焚き火ではない、だったか。


 公爵は昔話と言っていた。

 勝者の歴史では語られぬ事が殆ど。

 私は知る東マレイラ人とは公爵と村人だけである。

 この術が破綻したとしても、現実に影響は無い。

 だが、公爵は姫の死出の旅を術の流れに乗せている。

 そこまでせねばならぬという事だ。


 あぁわからぬことが多い。

 それでいて、答えだけを掴み取るのは駄目だ。

 きっと答えを聞いてしまったら、終わる予感がする。

 私はしくじり、きっとカーンの命運も終わる予感がする。

 目先の災難を避けて、崖から落ちる予感だ。


「巫女見習い、守護とは何だ?

 何を考えている」


 答えぬ公爵のかわりに重ねた問いかけは、私にだ。

 筆談は誤解を招きそうだ。

 私は伝わるようにと、カーンの指を再び握った。

 彼は少し眉間にシワを寄せると、私を見下ろしながら口を開いた。


「争いごとには疎いが、人同士の争い以外の視点がある。と、言っているな」

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