第733話 俺は変わったか? ⑥

「その」


 バットが躊躇うように何かを言いかける。


「念話だ。

 これでも見習いとはいえ、巫女の端くれだ。

 子供だから、まだ見習いなだけで力はある。

 本神殿の巫女総代である婆さんのお気に入りだ。

 直接言葉をお前らには伝えねぇのは、気をつかってんだよ。

 こうして触れるとお互いに聞こえて見えるんだ。

 俺は開き直ってるからよ。

 何を見られても気にもしねぇって、こいつもわかってるんだ。

 その辺のガキと違って気遣いってのをしてやがるんだ。

 ん、何だ、てめぇ等、クソでも渋ってるみてぇな面しやがって。

 疑ってるのか?

 それともなんだ、何か言いたいことでもあるのかよ。

 すすんで頭を垂れるってんなら、婆さんのところへ行けよ。

 説教ぐらいはただでしてくれるだろうさ。

 それとも何だ、順番待ちもできねぇほど急いでるのか?

 まぁそん時は俺の方へ言うがいいさ。

 どんな懺悔でも聞いてやるぜ。

 それともチイセェガキの巫女じゃねぇと不満か?

 世間知らずの巫女見習いなら、お前らもこぎたねぇ中身をぶちまけて、心置き無く懺悔できるってか?」


 ツラツラと流れるように喋るカーン。

 嘲る言葉とは裏腹に、その表情は無だ。

 相手にしてみれば、激怒しているかのように思えるだろう。

 だが、繋いだ手からは呆れ混じりのうんざりとした心情が伺えた。

 失望、だろうか?

 そのカーンに言葉を遮られた男は、相手を抑えるように両手をあげた。

 降参、だろうか。


(言葉づかいが悪いですよ、旦那。

 それから私は小さくありません。

 旦那方が大きすぎるだけです。)


「ほれ、汚い言葉を使うなって怒られたじゃねぇか。

 で、話の続きだ。

 そのまま喋るぜ。


 彼らは呪術的な守護を破壊しようとしている。

 呪術という馴染み無い言葉をわかりやすく言えば、信仰心、心の拠り所を破壊しようとしている。

 公爵の身を損ねようとしたのは、宗主という信仰の儀式頭を排除しようとしたとも考えられる。

 信仰心、人心の乱れは、領地の力を落とし、様々な害悪を産むだろう。

 公爵という頭領を排除したとしても、次代様がいれば領地運営は停滞しようとも保たれる。

 しかし信仰心に動揺を与え、さらには暴力沙汰などの荒廃がすすめば、領地内全てが負の方向へ向かうだろう。

 公爵の殺害は、被害の土地にあるべき守護、信仰心という力を失わせる事も含まれているのではないか。

 そしてこの考えを更に広げるとだ、公爵が担う守護の役割は、3つの公爵領と共同で行ってきたものだ。

 故に、この攻撃は他の領地にどのような影響を及ぼしているだろうかとの疑問、あぁ不安だな。

 他の領地はどうなっているのか、様子はどうかと聞いている。」


「ボフダン領地内は変化無しですね。

 ただ、外洋航路、交易船、低空航路便は運行停止中です。

 自主的に鎖領地を行っていますので、いずれ領地内にも不便が生じるでしょう。

 シェルバンは、変異体騒ぎで村や関が破壊されています。

 奥地の領都については確認できていません。」


 答えたモルダレオに、カーンを通して問いかけた。


「何か、変わったこと、そうだな念入りに壊された場所はあるか?」


「村や街が破壊されていますね。イグナシオからも関を二つ焼き落としたと報告があがっています」


「破壊する理由があるそうだ。

 無秩序に襲いかかっているのではなく、目的がある、だと?」


「変異体は失敗作で、成功した個体は手元に置いていると考えているのだが」


「変異体の成功例という物はわからない。

 ただ、東マレイラを閉じようとしている..包囲か、どうしてそう思った?」


「何と言っているんだ、カーン?」


 握ったままの手を少し上げ、私の考えを吟味するように力を込める。

 そうしてカーンは私を見つめ、


「大丈夫だ、誰も生意気だ何だと思っちゃいねぇよ。」


 と、その手をなだめるように揺すった。

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