第734話 俺は変わったか? ⑦


「東マレイラの守護とは、人の思いであり、その輪の中で安らかに暮らす為の囲いだ。

 その正しい流れは、人の暮らしあってのものでもある。

 守りが現実に争いなどを無くす力は無いとしても。

 失われたとなれば、信仰、人の道徳が失われる事ではないか?

 道徳、この国が人に求める信義や心が失われたらどうなるか。

 寄生虫は、宿主を操る。

 暮らしやすいように。

 東の人が絶え、人ならざる者が囲いに満ちたとする。

 中身が人の形をした別のものになっても、この守りはそれを人とするのだろうか?

 守りは歩みを変え、人の形をした何かの望みを叶えるのだろうか?

 ん、まずいな、こりゃ」


 私はカーンから公爵へと視線を向けた。

 彼は私の言いたいことがわかったと思う。

 私は鎮護の道行きが国護りの術であると理解している。

 広く薄く大きな守りであり、故意に消し去る価値はない。

 つまり例え消えたとしても人々の生活に直接影響は無いともいえた。

 しかし、コルテス公にとっては辛くとも守らねばならぬものであった。

 3つの公爵領には利益があり、王にも利益のある約束ごとなのだ。

 だが、約束を守る意義は、コルテス公個人としては姫が亡くなった時点で失われたと思う。

 姫が望むから、彼は正しき人としての選択をしているに過ぎない。

 ただし、ただしだ。

 勝手に相手が滅びるのは別だ。

 だから、この異形が人を襲う騒ぎは、彼が望んだ結果でもある。

 そして公爵はニルダヌスからの報告で何かを、多分、敵がとうとう自滅したことを知ったのだ。

 そこを踏まえて、公爵の望みは予想できる。

 彼は復讐と共に、愛する人の呪縛を解く事である。

 公爵こそが鎮護の道行きを失わせたい者なのだ。


「その考えは良くねぇとよ、公爵」


 私の言外の感情をカーンが口にした。


「頭領がそういう考えじゃぁいけねぇって事だ。ケジメは自分だけでつけろや」


 それに公爵は口元を歪め、何も返さなかった。


「意味がわからないのだが」


 カーザの言葉に、カーンは少し考えてから答えた。


「まぁ東の色々な事情は置いておいてだ。

 東は人間用の生け簀だとする。

 その生け簀には、人間が暮らしているわけだ。

 人間は、生け簀が暮らしやすいように住処を整える、まぁ当たり前だな。

 ところが中身がいつの間にか、人間にすりかわる。

 人間用の生け簀だから、当然には暮らしにくいってわけだ。

 そこでが多数になり、餌の人間が少なくなると、囲いは判断を鈍らせるわけだ。どっちの人間の暮らしを整えたほうが、大多数の幸せな生活になるのか、わからなくなるって感じだろうか。

 そこでが暮らしやすいように水や餌を変えていく」


「そっちか!」


 モルダレオが怒鳴り、ニルダヌスも驚きを見せた。


「悪いが、俺達にもわかるように話してくれ」


 バットの言葉に、モルダレオが眉間を揉みながら答えた。


「自分も失念していました。

 不死細胞と同じ特徴を持つ変異体とすれば、同じく環境改変も行うと仮定することができます。

 寄生虫ならば制御可能と考えていましたが、早急に根絶を考えたほうが良いでしょう。」


「確かに、アッシュガルトでも一時、視界に異常が生じました。

 人族の方々では、堪えられないでしょう。」


 とは、ニルダヌスだ。

 彼も非常に苦い表情である。


「わかりやすく言ってくれ」


「言葉通りです。

 環境改変ですよ、わかりやすくも何もない。

 寄生虫は巣作りをし、東マレイラはその虫に適した環境に変えられていく。

 巫女見習いが言いたかったのは、支柱である公爵閣下を失わせ人間たちが弱った隙を、あの下等な生き物が埋めるのではないか。

 それにのではないか?と、言っているのです。」


 誰もその先を言わなかった。

 怖い想像はいくらでもできる。

 現にアッシュガルトでは、人の暮らしがあっというまに侵略されてしまった。


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