第259話 夏至にて、仔らを捧ぐ
「古語で書かれているが、入植当時の記録だ。
記録と言っても、覚え書き程度のものだな。」
小卓は美しい模細工が施されている。
その上に、脆い羊皮紙が広げられた。
文字は古語で、独特の波打つような象形文字が綴られていた。
「我の曾祖父に仕えていた者が書いた。そしてこちらは、当時、シュランゲの祭祀と交わした約定だ」
もう一つ、美しい金箔の施された羊皮紙が取り出される。
内容は、土地の大きさ、税の単位、年間の労働による生産物の量。井戸の位置など細々とした事が書かれていた。
そして最後の数行に、約束事が記されていた。
(血と血を混ぜ、この地に平和と繁栄を誓う。
この約定は、血にて誓い保つ。
同じ血を持つ者が争い、神に捧げねば破られる事は無し、か。
思ったよりも、大枠な縛りだ。
だから、氏族内の争いは問題じゃないんだね。
つまり殺した後、ひと手間、誰かさんが加えたか。
これは面白くなってきたなぁ。
反乱に集められた人々の行方も気になるなぁ。
もちろん、今はそれどころじゃないけどね。)
最初に取り出した羊皮紙の内容に戻る。
過去のアイヒベルガーに仕える男の雑記帳だ。
住人の数や、収穫高、近隣の水源や人種の分布。
これを書き記した者は、文章を書くことで考えを整理していたらしい。
様々な事柄が無秩序に記されており、何かを残すという考えからの文面ではない。
侯爵が示した場所には、ある年の死者の数が連なっていた。
毎年、一定の数が死亡している。
規則正しく、死者の数が同じなのだ。
一人二人の増減はある。
だが、ほぼ一定の死者の数だった。
「これが何か?」
「この死者の数こそが、先住民であるシュランゲと我らが手を結んだ原因である」
「疫病の年や冷害の年以外の年間の死亡者数が、ほぼ同じ。そして住人の数も死者の割に減っていない」
サーレルの確認する言葉に、侯爵は頷いた。
「この死者の数は、シュランゲを領地に加えてから、このように一定ではなくなる」
あの金箔の羊皮紙に記された約束が決められた後は、だ。
「単純に考えれば、毎年、奴隷を購入し、過酷な労働に従事させ使い潰していたのでは」
「死者の数が揃わなくなった年の記述には、数人の氏族の若者が死んだとある。」
「その詳細は記録されているのですか?」
今度は幾分劣化の激しい羊皮紙の束が取り出された。
「いずれも成人前の子供らであった。
病没とあるが、死因は不明だ。
だが、重要な部分はここからだ。
子らは、このトゥーラアモンとは別の場所に葬られた。
葬る場所として、新たに支配地になったシュランゲが、その弔い場所に選ばれている。
そして弔いの為に村の者と共に、アイヒベルガーは未来永劫尽くす。と、定めた。
因みに、この子らはアイヒベルガー直系の長命種である。
病名の記載は無い。
そして、砂を埋葬したはずの墓も無い。
トゥーラアモンからシュランゲへと送り弔ったとだけだ。
あの村には、この子らの墓や慰霊の碑はない。」
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