第258話 羊皮紙 ③

(この領地全体に大きな誓約がかけられている。

 そこにが流れた。

 今ならわかるだろう。

 彼は朽ちない。

 約束が果たされるまでは。

 すでに魂は自由だけれど、彼はまだ去りはしない。

 それから、彼が選ばれた理由だけどね。

 下衆にはすぐにわかる話なんだよ。

 君には想像もつかない人間関係が原因だ。

 もうわかっているだろうけど。

 あの女はね、他人の幸せが許せないのさ。)


 彼は、幸せだった?


(そうだね。

 彼は人として幸せを掴もうとしていた。

 それに彼らの中では、まだ、壊れていなかったからね。

 だから、亜人の娘と一緒になろうとする彼が選ばれた。

 グーレゴーアを焚きつけて殺させようとした理由がこれだ。)


 まさか、そんな事でか?


(そんな事で、なんだよ。

 浅ましく愚かだろう?

 自分より幸せになりそうな人間が許せなかったんだろうね。

 ついでに術の主導権を盗む力にしたんだ。

 きっとこんな風に囁いたのさ。

 兄が何かを企んでいる。こそこそと村に通っているのは、きっと自分たちを侯爵に売るためだってね。

 通っていたのは、恋人に会いに毎日遠乗りしてただけなのにね。

 何をびっくりしているんだい。

 まぁ君は子供だからね、女のドロドロした部分なんて気が付かないか。

 えっ、子供じゃない?怒らないでよ)


 誤解だと。

 全部、誤解だというのか?


(僕はね、一度、すべて灰にするのは良いことだと思うんだ。)


 何をいっている?


(子供じみて自制心の無い人間ばかりだと思わないかい?)


 原因、がある?


(要因さ。

 おかげで本性が顕になっただけって話。

 結局は変わらない結果だったかも知れない。

 けど、こんな結末に向かう要因の一つは、壊しておいたほうがいい。

 つまり、僕もシュランゲの呪術師と同じ意見さ)


 この土地が悪いのか?


(さぁどうかなぁ、さて、侯爵に聞いてごらんよ。今なら彼は何でも答えてくれるだろう。さぁ子供のいる場所の手がかりを探すんだ。)


「エリが消えました。何処に呼ばれたかわかりますか?」

「我は知らぬ。浚うなら、我らではない」


(アイヒベルガーが土地神と結んだ約束事を聞き出せ。

 その約定の儀式場を探すのだ)


「古の約定を教えて下さい。

 侯爵様の御先祖が、土地の神と結んだ約束です。」

「私にはわからないことばかりですね。焦らずにわかる言葉でお願いしますよ」


 サーレルはそういうと、遺体の傷口を確かめた。


「鉈よりも厚みのある刃物ですね。剣ではない」

「この土地を治めるにあたり取り決めた、古い約束事です。

 シュランゲと侯爵様の御先祖が取り決めた約束の内容。

 これだけは守るようにと伝わるお話の事です。

 お心当たりはあるはずです。」

「それを知ってどうする?」

「エリを助けねばなりません。この約定の儀式場を知りたいのです」


 その問いに、侯爵は書棚から、古い羊皮紙を取り出した。

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