第260話 夏至にて、仔らを捧ぐ ②

「弔いの労に、村の祭祀には特別な権限を与えた。

 村の采配と鋳物鋳造の技術を独占させるとある。

 また、彼らとアイヒベルガーは、この後、争わず共に生き手を携える。

 つまり、宗教や人種による弾圧を止めると決めた。

 ここまでは、正史としても我も理解していた。」


 侯爵は、嫡子の血が流された後、過去に結ばれた約束事をさらった。

 血を使われたのではないかと懸念したのだ。

 勿論、シュランゲからの報告が途絶えたのもあった。

 あのエリを守っていた青い男からの連絡が途絶えた。

 ただ、人をやる事はできない。

 もしも約定が破られたなら、そこには死が待っている。

 すべてが終わるまで、手出しはできない。

 では、どうするべきか?

 どうすれば、一族郎党守れるか?

 彼は自分の命の時間が許すかぎり、亡骸と共に過去を調べた。


「問うて答えぬとも、問いただせばよかったのだがな」


 彼は、返答がどんなものであれ、グーレゴーアに問いただすべきであった。

 彼が本当に反乱を企てていたのか?

 お前は兄を殺したのか?

 迷信と思い、過去の約定を破ったのか?

 血を、土地にまいたのか?

 と、証拠が無くとも捕縛し、問うべきであったのだ。


「あれはイエレミアスを好いていた。

 兄弟仲は悪くなかった。

 兄を殺すぐらいなら、我を殺しに来るのがすじだ。

 まぁ筋も何もないのだがな。」


「侯爵様、貴方はシュランゲとの約定が、現実として脅威となる事をしっていましたか?」

「もっと直接に述べてもよいのだぞ。

 その問の答えは、こうなるか。

 我は知っていたが、知らなんだ、だ。」


 侯爵はため息をついた。


「お前は神を信じているか?

 信じているとして、現実にいると思うておるか?」

「はい」

「ほぅ、さすがだな。感服したぞ。

 そうしてすぐさま言葉にして返せる者は、信心深いか大噓つきだ。

 もちろんには、それにあたらぬと知っている。

 だが多くの凡夫にとっては、神は信じておっても、在るとはならない。

 違うか?

 我らの先祖が残した物が、果たして本当であるか否かなぞ、目にしたことも無い神と同じなのだ。

 だが神を信じてはおるし、否定はできない。

 まして我が子は、こうして形を残している。

 さて、話がそれたな。」


 次に取り出されたのは、小さな紙の綴だ。


「訳した物だ。これを記した者は、怯えていたようだ。」

「何にです?」

「多分、当時のこのあたりに蔓延る全てと、領主自身にであろう。我が先祖は、逆らう者には容赦なき鉄槌を下したとある。

 多分、そうならねば、この後の記述にあるような行いを成せなかったはずだ。」


 渡された綴をちらりと見ると、サーレルはすぐに私に渡してくる。

 受け取り、目を落とす。


「当時、前領主が死に、その後を拝領したのが我が曾祖父だ。

 半信半疑ながら、先住の者からこの地に蔓延る病を知った。」

「病ですか?」

「領地に巣食う古い神という病だ」


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