第261話 夏至にて、仔らを捧ぐ ③
「何と言えばいいのだ?
古い神が人を喰いにやってくると?
今ああして姿を見ねば、理解できまい。
そしてこの記述の時代は、王国となる前の分裂期である。
困難があったとしても、それをあらわにできない時代であったのだ。
理解した上での拝領であろう。」
「つまり、対処を誤った前領主の二の舞いになることはできなかった。化け物こみ拝領というわけですね。
そして失敗すれば一族根絶やしですか」
「今も変わらぬであろう?ただ、ああして化け物が本当に喰いにくるわけではないがな」
サーレルに冗談で返すと、侯爵は綴を指さして続けた。
「最初の数年は奴隷を外から買い付けていたのだろう。
一定数の死者がそれだ。
高い買い物であるし、恒久的な対処ではない。
そこでこのあたりの先住の民と交渉した。
如何すれば、あの化け物を討伐できるかとな。
誰しも考えに至る話しぞ。
化け物を養っていては、人間が飢えてしまう。」
「殺す方法ですね」
身を乗り出した私達に、侯爵は笑った。
「殺すのは無理のようでな。
力を弱める方法はある。との答えをもらったそうだ。」
「弱める?」
「あの化け物は夏至に現れ、生贄を喰らう。
元は手当たりしだいのことであったが、年に一度まで減らす事ができた。
先住の民の呪術師が交渉を繰り返したそうだ。
あまりに力強い土地神であった為に、封じるまでは無理だったとある。」
「彼らが今まで生贄を?」
「土地の支配者が負うべき義務という事だ。
我々がこの土地を奪い、その義務も奪った事になる。
彼らはきっと馬鹿な者だと思ったろう。」
「どのように弱めるのですか?」
それに侯爵は私を見て、目元を少し滲ませた。
何故か私だけを見つめて、泣きそうな顔をした。
「喰わせればよいのだ。簡単な話しぞ。
喰ってはまずい者を喰わせるのだ。
さて、お主の探す儀式地とは、トゥーラアモンの夏至の祭りの事であろう。
過去の生贄の儀式は隠され廃れたが、夏にシュランゲで行う祭りがある。」
一息に喋ると、彼は微笑んだ。
寂しく疲れた微笑みだ。
「息子らも子供の頃に祭りに行った。
夏至の時期に、氏族の子供はシュランゲに滞在し祭りに参加するのだ。
輪になってな、一晩中踊るそうだ。
料理に歌に笛太鼓、楽しい祭りだ。
そうして昔の出来事をなぞるのだ。
森の人よ、あのエリカという娘を見て、打ち捨てた過去を思い出した。
自分自身の、人としての行いが非道であったと認めよう。
頭領としての義務だけを全うしようとした人非人であると認めよう。」
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