第772話 手紙 ⑥
そこでカーンは、椅子に肘を置くと欠伸をした。
眠い?
「あぁ、それと良い知らせだ。
巫女頭はウォルトと教会に戻っている。
ニルダヌスの孫も下に戻す。
ウォルトを教会に暫く置く。
それとなく気配りさせるから、ニルダヌスが戻らずとも大丈夫だ。
それに孫の身の振り方は教会の方で差配する。
路頭に迷う事もないし、迫害されるような暮らしぶりにはならん。」
よかった。
ニルダヌスはどうなるのです?
「どうしたらいいと、お前は思う?
アレの罪は何だ」
そもそもの具体的な事柄を知りません。
伝え聞いた話で、それも端布のような物です。
「過去の罪は精算されている。
罪深いとされる行いについて、裁かれた後だ。
もう、償っているって訳だ。
今回の告白に関しても、罪に問える具体的な事柄は無いと俺は考えている」
眠そうに目を擦ると、彼は続けた。
「過去、罪を犯した者を幇助した。
過去、家族を無断で隔離地域から逃した。
だが、ニルダヌスは既に刑期を終えている。
その過去にまつわる出来事に対しての告白をしたからといって、それが何の罪になる?
告白自体の信憑性を確かめる術がない上に、死人を生き返らせたという話だぜ。
何しろ、証人は死人で骨も残っていねぇ。
高々年寄りの
況や真実であったとしても、今、罪を犯しているのは別の愚か者だ。
カーザもバットも、端からニルダヌスを罪人と糾弾するが。
それは言いやすい相手だからであって、奴の罪を信じている訳じゃない。
くだらねぇ擦り付けをしたいが為の、嘘だ。
俺は嘘つきが死ぬほど嫌いだ。
お前が自分の身長を大きく見せようっていう可愛い嘘の話じゃねぇ。
人様の大事な物をかっぱらって、まるで被害者みてぇに文句を言うような嘘つき共の事だ。」
嘘ではありません。
私の身長は小さくありません。
「鼻の穴ふくらませて怒るなって、猿みたいな顔になってるぞ。
でだ、彼奴等二人はよ、テメェ等の嘘がばれてねぇと思ってる。
手癖のわりぃ自分等の後ろ暗い稼ぎの話がバレたらまずい。
お前のお守りをしている内なら、隠し果せると勘違いした。
俺がアホぅに見えたんだろう、今ならごまかせるってな。
嘘ばっかりついてると見境が無くなっていくんだ。
これな、犯罪者の考え方って奴でよ。
自分の口から出てる嘘なのに、真実だって本気で信じちまうんだぜ。」
カーンの言おうとする意味が少し理解できた。
信じているんですか?
「あぁ、ニルダヌスは罪人だ。
多少罪が増えても同じだ。
悪人だからってな。
自分たちは悪くない。
何をしてもな。
そりゃぁ恨まれる事をした。
だが、今だに声高にニルダヌスと孫を傷つけようってしてるのは、家族を疫病で失った者じゃぁないんだぜ。
そりゃぁ辛くあたる者もいるだろう、人間だからよ。
でもよ、わざとひと目のあるところで晒し者にしようってのは、一部の、そうニルダヌスの義理の息子に加担した奴らなんだ。
わかるか?
罪人と一緒に罰を受けたくなくて逃げて生き延びた奴らだ。」
なぜ、ニルダヌスはここへ送られたのでしょう。
「悪意に見えるが、妻の故郷なんだよ。
腐土がらみで事件が起きなきゃ、カーザ達がここへ送られる事もなかった。
巡り合わせというには皮肉な事だ。
だが過去に何があったとしてもだ。
頭をはる人間は、感情で物事を処理しちゃぁならねぇ。
ましてや、弱い立場にたってる相手に、自分の不始末を押し付けるなんざァ塵の所業だ。
って、俺がまっとうな説教してもしょうがねぇんだがよ。
ガラじゃねぇし。」
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