第773話 手紙 ⑦

 もしかして何か罪を押し付けて、ニルダヌスを処刑する手はずだった?


「女子棟の壁を壊さなきゃぁ、神殿の巫女総代の婆さんは来なかった。

 これでニルダヌスを私刑にする機会がなくなった。

 自分たちの嘘を押し付けちまおうって段取りしてた矢先だ。

 まぁ本当に殺っちまったら、馬鹿二人の首を袋詰しなきゃならなかったがよ。

 悪運が過ぎるよな。

 悪運っていやぁお前がこっちに来なかったら、公爵は石塔で腐って死んでたかもな。

 ニルダヌスと公爵にとっちゃぁサーレルじゃねぇが、お前は瑞兆って奴だ。

 俺も拝んどくか」


 冗談に私は首を振る。

 カーンが言うのなら、本当の話なのだろう。


 ニルダヌスなら当然だと思う考え。

 自分たちの面倒事を押し付けて当然?

 よく、わからない。

 それほど憎いと思う原因があった?


「ニルダヌスの息子が失敗しなきゃ、自分たちはもっともっと幸せだった。

 今日の飯が不味いのも、靴の紐が切れるのも、その息子がもっともっと頑張って人を殺して口封じしていれば、こうはならなかった。

 あぁもっともっとうまくやれば、自分たちが盗人の真似事をせずにすんだのに。

 そうだ盗人として捕まるのは自分たちじゃない。

 生き残ってる奴の家族が犯人だ。

 そうだそうだ、俺達は良い人間なんだ。

 こんな不幸は自分たちには相応しくないじゃないか。

 罪人は早く殺さねぇと自分たちが不幸になっちまう。

 って、感じだな。

 まぁ嘘つきってのは、こんなもんよ。

 信じ切ってるもんに、説教なんぞ耳に入らねぇ。

 話をするのも疲れるぜ」


 そんな、酷い。

 ビミンは、大丈夫なんでしょうか。


「あぁウォルトもいるし、護衛と監視をつけるから大丈夫だ。

 孫に罪はねぇし、神殿預かりの人間を傷つけるなんぞ、頭が湧いてるぜ。

 それにクソな親の子供って貧乏くじを引いただけだって、まっとうな大人ならわかる話だ。

 親は選べねぇからな。

 それよりもだ、他人事じゃぁねぇぞ。

 お前が何者か、今だに探ろうとしてるぜ。」


 何を探ると。


「お得意の思い道理にならない原因探しだ。

 粛清者が連れ歩く者を問い合わせて、返答があるわけねぇだろ。

 ジェレマイアが俺に預けたのは、そういう意味だ。

 俺達を動かしてるのは、頂点の人間たちだ。

 嘘つきどもが騒いでも、逆に奴らの興味を引き寄せて自滅するのがオチって具合よ。

 奴らの親元も口を噤むのは、藪をつつきたくねぇってのが本音だ。

 俺が狒々爺みてぇな脂ぎった野心家だなんだと表向き罵ってるのは、格好だけでな。

 手を出す気なんか奴らには、あぁあの二人を使っていた奴らの事だ、ねぇんだよ。」


 ヒヒジジイ?


「俺が直々に動くんだ。

 お前が高貴な誰かのご落胤様じゃねぇかってな。

 と、言うことで、今日から一緒の部屋で寝るぞ。

 剣が抜きやすい入口側が俺な」


 俺なって、何がどうしてそうなるんです?


「寝台の寝る位置。

 一応、寝相は悪くないからな、お前を潰す事は無いと思う」


 いや、ここの長椅子で寝るんで。


「護衛にならんだろうが。

 いつもの野営の雑魚寝と一緒だ。気にすんなよ。

 それとも一丁前に、恥ずかしいとか、あぁねぇな、ねぇって顔だな。」


 気にはしませんが、安らがないのです。

 いえ、身の危険という事ではありません。

 旦那こそ、誰かが側にいるとよく眠れてないでしょう?


「そりゃぁ元々の育ちのせいだ。

 お前こそ、お嬢様扱いがよけりゃぁミアどもを侍らせてやるぞ。

 終始女どもに弄り倒されて、赤ん坊扱いだがよ。」


 想像できすぎて、慣れた男の側の方が眠れる気がした。

 カーンが側にいるというのなら、それだけ危険なのだとも理解する。


「まぁ俺もお前の図太さには助かってるぜ。

 お前くらいの下町のガキでも、一緒に寝ようぜなんて言ってみろ。

 それこそ変態の狒々爺扱いだぜ。

 人殺しで罵られるより、どんよりするぜ」


 図太い..。


「褒めてる褒めてる。

 ほれ、髪を早く乾かせ、風邪ひくぞ」

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