第288話 幕間 砂の王国 ②

 だが、その化け物は、何故か大型獣人の彼らよりも、人族や亜人に受けが良い。

 解せない。

 等と、カーンがくだらない事を考えているのは、書類も書き終えて、本当に何もする事が無いからだ。

 だから、つい、考える。

 仕事上接する機会の多い軍統括長の席に座る男と審判官の頂点にいる者。そのどちらが面倒くさいのか。

 どうでもいい事である。

 方向性は違えども、どちらも同じくらい厭だ。

 考えるまでもない。

 だからか、カーンと仲間たち、堪え性とは縁の無い者たちも、黙って座り心地の悪い椅子に寝そべって待機している。

 寝そべったり寝ているのはご愛嬌だ。

 そうして待たされ審判官が部屋に訪れたのは、それから更に半日、さすがに食事が供された後だった。

 因みに、食事を持ってきたのは、獣人の女将さん風の女性であった。


「腹が減っただろう、兄ちゃん達。まったく綺麗なお嬢様方が泣いてるから何事かと思ったよ。

 まぁしょうが無いねぇ、こんな汚い面した男どもじゃぁね。

 兄ちゃん達も、ここに来る時は髭ぐらい剃りな。あんたらの母ちゃんも、身だしなみには気をつけろって言ってなかったかい。

 ほら、これおまけに菓子もつけといたよ。はぁ、今日は孫の誕生日でね、休みだったのに呼び出されてさ。

 あぁ心付?催促したわけじゃないよ、やだねぇ。

 くれるのならもらっとくよ。そうそう、アタシの孫の店、ここね。

 飯を食う時はお仲間にも声をかけてよ。

 ほら、ここ。

 酒?

 あぁ南の酒も入っているよ。この紙、持ってきてくれたら割り引くから。あぁ可愛い子もいるから、来るなら髭剃って、風呂に入ってから来るんだよ。まったく、ちゃんと風呂だよ。はい、まいどね」


「ほらな、爵位なんぞ塵以下だろ。扱いがガキの頃と変わらねぇ」

「相手を知らぬか、肝のすわった御婦人なのだろう。

 それに南の女は、あれが普通..だったよな兄弟?」


 とのモルダレオの言葉に、エンリケがため息混じりに続けた。


「その店は知っている。

 あの御婦人は、ああ見えて南領東部貴族の出身だ。

 髭面の兵士なんぞ、顎で使うのに慣れている。

 店も白夜街だ。

 荒くれ男なんぞ銭の種ぐらいにしか思ってない。

 それに一応、貴族なので呼ばれたんだろう」

「最近、都の女ばかりと接していて忘れていたが、あれが普通か」

「普通じゃない。妙な情報をカーンに教えるな」


 と、モルダレオとエンリケの二人を、イグナシオが止めた。

 だが、そのイグナシオも食事は美味かったので、今後の予定に孫の店とやらを加える事にした。


 ***


 今回の事案は、あらゆる場所からの訴えによる複合的案件であった。

 あらゆるとは言葉通り、国から軍から、街から、学都からと様々な国の機関からの訴えであった。

 それもほぼ、犯罪の立証ではない。

 物的証拠は無いが状況証拠は積み上がっていた。

 立証は難しいが、確実に罪を犯した者が誰かは推測できる。

 本来であれば、このような訴えに対しては証拠不十分で記録のみとなるか、捕縛尋問となる。

 ところが、この訴えに対して、捕縛要請ではなく処刑妥当とされた。

 腐土、絶滅領域の出現原因に深く関わっている男を処刑とする理由。

 それは言うまでもなく、捕縛、できなかったからだ。

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