第289話 幕間 砂の王国 ③
捕縛は実際に計画され行われたが、投入された人員は消失。
その後、大公家の五番目継承者の介入により、問題が複雑化。
経緯としては、腐土の地域隔離が本格化頃に漸く処分相当が妥当と判断に至る。
神殿の方から汚染原因の追求を、原因とされる男から聴取できる可能性が低いとの意見。そして大公家と公王から情報隠蔽の処分申請が決定を促した。
捕縛できない男を処分できるのか?
そこで南領浄化を行ったカーンに仕事が割り振られた。
大量の浄化作業を行った人殺しにだ。
結果として、そのカーンも男の首は持ち帰れなかった。
持って帰れたのは五番目だけだ。
故に、事実上任務失敗。
更に、事故死で物証無しの報告のみ。
本来なら物証なし、他者の公平な証言無し等、ふざけた報告は懲罰ものだ。
さりとて、もともと捕縛できない相手の殺害だ。特殊な状況下で首を保存し持ち帰れる可能性も低い任務だった。
なので元々審判官の特別審判が予定として組まれていた。
この審判を通過できれば、一応の任務達成となるのだ。
審判、つまりカーン達の報告の真偽の確認だ。
非常に不愉快な作業であってもだ。
では、その審判とは何か?
元々ボルネフェルト公爵の尋問も、この審判が行われるはずであった。
だが、捕縛して貴重な審判官を充てがうには安全性が疑われる上に、利が少ないとなった。
汚染と消失を再び首都に招き入れる事を恐れたのもある。
例え真相がわからなくとも、公王系譜の五番目が死んだとしてもだ。
ともかく、件の男が死んだと証明できればいいのだ。
カーンが非常に不愉快であっても、だ。
***
入ってきた男を見て、今回の審判官が誰だかわかり、皆、椅子から立ち上がった。
入ってきた男、同じ大型重量獣種である傭兵ヨーンオロフである。
青白い肌に短髪の赤毛、軽薄そうな顔をした若い男。
一見、チャラチャラとした男に見えるが、戦闘種としては一番大きな型だ。
つまり、外見よりも腕力も重量もあるカーンと同じである。
そしてこの傭兵は、ここ数十年同じ者の専属護衛をしていた。
人族と獣族を統合し、この中央王国は誕生した。
大陸全土を統一したわけである。
元々、獣属を隷下としていた人族首長を駆逐し、同等であるとしたのが現在の公王系譜の元、モーデンだ。
そして二つの種族の融和の象徴として、混血の公王が頂点に座っている。
混血に対する忌避を承知の上でだ。
そして忌避する理由のひとつが、傭兵の安全確認の後に入ってきた。
「お待たせいたしました、皆様。
今回の審判をつとめます、コンスタンツェ・ハンネ・ローレ一級審判官です。どうぞよろしく」
そう名乗ると見えない目で、コンスタンツェ殿下は迷う事なく椅子に腰掛けた。
そして見えているかのように、カーン達に着席を許した。
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