第290話 幕間 砂の王国 ④

 彼の目が本当に盲目なのかはわからない。

 その目は布で隠され、中身があるのかは不明だ。

 彼の体の不具合は、公王系譜と獣人種の血が交じると一定の割合で出現する特殊な例だ。

 本来は、混血の法則により、どちらかの種族に体の構成が偏って出生する。

 生きていく上での不具合が無い状態に種族が決定し生まれる。

 しかし、公王は混合体と呼ばれる特殊な体で出生する。

 つまり公王とされる者も、変則例である。

 これはモーデン縁の大公家の血の問題であり、一般的ではない。

 だが、実例として王系譜のこの不具合により、混血の忌避感はどうしても貴族階級に多くなる。

 融和を謳っていても長命種の古い血筋の者は、混血を忌み嫌っていた。

 これは獣人亜人にとってはどうでもいい話だ。

 庶民の知る混血の法則は、両親の良い特質を受け継いだ、どちらかの種族の子供が生まれるだけの話である。

 長命種だけが、自分と同じ種族の子供が生まれなくなるだけの話であり、先細りを憂いているのは、彼らだけなのだ。

 つまり長命種と獣種の特質を備えた公王は、謂わば万能の人である。

 本来は生まれない万能の人を作り出すために、多くの健康を損ねた子供が生まれる。

 その一人が、このコンスタンツェ殿下である。

 だが、そんな彼が弱者であるとは限らない。


「では、これよりボルネフェルト元公爵及び、フェルディナント大公子息の失踪についての特別審判を始めます」


 融和というが、人獣両王家の出生率は低い。

 まして獣人王家なぞ王都に暮らしてもいない。

 婚姻も形だけで、医療技術により子供をしているだけである。

 そして公王となりえる者は、王都に暮らす事になっている。

 この盲目の青年も、王都に縛られていた。

 もちろん、タダで縛られているような人間ではない。


「では、中央統合軍南領統括長直属部隊長及び、えぇっと第八兵団第八師団所属第八軍団長補佐..第八上級軍団長では?」


 書類を指でなぞりながら、コンスタンツェが首を傾げた。


「降格人事だ」


 馬鹿らしい所属名に笑ったのか、コンスタンツェが長い所属名を間違えずに言えた事がおかしかったのか、オロフが吹き出している。


「気が散るので、オロフは窓の外でも見ているように」

「護衛の意味が無いんじゃないんすかねぇ」


 等と言いながらも、オロフは窓辺に移った。


「彼らが私に何をするんだ?

 これから私が、彼らにするんだよ」


 そういった男は、うっそりと微笑んだ。

 優男には似合わない、少し狂った微笑みだ。

 もちろん、コンスタンツェの主張も嘘ではない。

 それを理解しているカーン達は、表情も態度も変えなかったが、内心はげんなりとしていた。

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