第291話 幕間 審判官

 王国では、幼年期に国の健康診査を受ける義務がある。

 貧富の差なく健康をはかる為の、子供の発達検査だ。

 表向きは保健目的とされるが、実は、ある特殊な才能を発掘するための検査が紛れている。

 簡単な知能検査に紛れて、回答不可能な問題が紛れているのだ。

 普通は誤問題とされるような物である。

 それは書面での検査以外にも含まれており、知能や身体能力の検査にも仕込まれていた。

 そして稀に、その誤問題に異常な正解数を出す子供がいる。

 正解の無い問題に、答えを出す子供だ。

 一例だが、箱の中身をあてよ。という問題がある。

 置かれているのは木彫りの箱だ。

 蓋がある箱のように削られた四角い木だ。

 そもそも開けられないし、中身を推測するにも隙間が無い。

 ならば、中身はわからない。または、木と答えるだろう。

 それが普通の答えである。

 頓狂な答えの子供もいるだろうが、重要なのは、この問題に対して、中身を言い当てる者がいることだ。

 この木の箱の中身は、その時々で入れ替えられているので、答えの推測はできない。

 そう、中身はある。

 木の箱のように見える削り出しではなく、芯に物が入れられる隙間をつくり二つの木片を接着した代物なのだ。

 中身は振って音がしないようにしており、その時々に小物を仕込んでから接着。相当数を混ぜおき、取り出して子供に答えさせるのだ。

 そして子供の回答と割って出てきた物を突き合わせる。

 と、いった検査をする。

 そのような質問に正解を出す子供は、速やかに国か神殿へと収容される。

 収容後に教育を施され、特殊な才能を認められれば、二つの職業に就くことになる。

 能力の方向性が国、軍部に認められれば、審判官に。

 神殿が求める能力に優れていれば、審問官になる。

 直截に言えば、審判官は政治思想、違反行為の取締捜査。

 審問官は、正統信仰、宗教的異端を排除する者である。

 共に、司法捜査職である為、彼らの権限によって裁判審理なく断罪処刑される事は無い。

 だが、未だに彼らの意見は重要な判断基準となる。

 コンスタンツェが名乗る一級は、審判官の最上位である。

 等級は六から始まり、四級までが監査業務など一般の事務作業に同じである。

 情報を集めて精査し、法律の兼ね合いや政治調整をする。

 そして三級から一級が、特別審判官となる。

 特別審判官の能力は、他者の思考の読み取りである。

 相手の考えを読み取り、知る事ができる。

 この貴重な能力を見つける為に、国中の子供を一度ふるいにかけるのだ。

 因みに、審問官は、この読み取りでも違う力に絞られている。

 異端を見つける為に、魂を読む神官の能力をもっているかどうかだ。

 だから、別に審問官にならずに、神官となる者が殆どである。

 異端者を追う者は、特殊な性質を備えた者になる。

 閑話休題。


 つまり、この眼の前にいるコンスタンツェ殿下は、相手の記憶を、それも王国随一の一級審判官なのだ。


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