第341話 お礼?
フリュデンの元の住民は死んだ。
幸いにも毒は呪術の昇華の末か消えていた。
そのもぬけの殻になった街を、難民がそのまま利用する事となった。
もちろん、金目の物や私財をそのまま拾得するわけではない。
それぞれの家屋から財産を運び出し、いったん侯爵の元へと集め所有者を精査。
主を失ったレイバンテールの屋敷に集めた後、再分配とした。
神官、侯爵の官吏、等と生き残りの住人たち公開での再分配だ。
不謹慎だが、相当の賑わいである。
住宅も生き残り達の人別を作り、これも新たに割り振られた。
このような事が可能だったのは、この地方の家屋の作りにある。
トゥーラアモンとフリュデンの建物の作りは、ほぼ同じなのだ。
建物を割り振るときに、元の結びつきの集団をあてるだけですむ。
職人の集団や商家、特権階級以外のまとまりは、ほぼ不公平感無く入居できるのだ。
そして家財や生活用品も、皆でわけあい、そのまま直ぐに困るという事は無い。
それは人が大勢亡くなった事実を除けば、実に幸いであった。
また、家族や働き手を無くした者への対処。
損失やその他の事々に、フリュデンにいる者達は沸き立っている。
悲しみや安堵、混乱や恐れ。
ありとあらゆる感情が吹き上げてるが、いずれも先行きを憂いてはいない。
これも侯爵が生きていることが一番の要因だ。そんな騒ぎも、生き残った事による、一時的な事だろう。
問題は山積である。
フリュデンと統合しただけでは、次の収穫時期まで耐え凌げない。
これは誰が考えてもわかる。
本格的な冬を迎える前に、備蓄も何もかも失ったのだ。
フリュデンの物資で飢える事は無い。
だが、それだけだ。
この為、侯爵の領地は、神殿の差配預かりになった。
神殿直轄地の特別税法を適用するためだ。
この法律は悪法になりかねない為、滅多に許されない。
内容はと言えば、神殿直轄地の中で、災害疫病などによって損害が明らかに認められ、収入収穫が認められない場合。
または住人の生命と財産を保てる見込みが無い場合。
この条件の神殿直轄地において、収益が回復し年の税収入が、他領の平均値に届くまでは、基本税が免除となる。
この他、中央からの借財ではなく、神殿からの借財という形での援助が無利子で認められる。
この援助は、返済時の負担も違う。
中央に借り入れをすると、軍事行動に際しての負担が、借金額によって上乗せされる。
また、返済不能となった場合、領地全体の成人に徴兵が速やかに行われ、返済にあてられる。
神殿の場合、この負担が無い。
今回、この優遇処置が適用されたのは、国からの意向がある。
例の遺骸を回収し、害獣の被害を速やかに処理する。
害獣が出て多少の損害はあれど、沈静化した。
と、情報操作と隠蔽を取り急ぎ行い、腐土と同じような事が起こりかけた。等という無責任な噂の流布を防ぎたいのだ。
「害獣退治なんぞと言うと、畑を荒らす猪や熊が思い浮かぶ。
まぁあれの姿を伝えたところで、誰も信じはしないがな。
それでもあの害獣を、軍が買い取ってくれるおかげで、領民も飢えずにすみそうだ。」
と、つらつらと喋るのはライナルトである。
エリが休んでいる簡易の診療所にて、私はぼんやりと周りの会話を聞き流していた。
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