第342話 お礼? ②

 あの遺骸を買い取る?

 ほぼ石塊のようで、臓物のような中身も無い代物である。

 あれをどうするのだろうか?


「残し人目に晒すのも問題だ。

 神殿と軍で色々突き回すんだろう。

 回収した毒物の元でもあるって話だしな。

 大枚をはたいて買い取るのは、まぁ見舞金みたいなものだ。」


 部屋の中、簡易の寝台が並ぶ。

 その一番奥、壁沿いの仕切りが置かれた場所にエリがいた。

 側には灯りが置かれ、神官がついている。

 それも私達を認めると、ライナルトに断り離れていった。

 寝かされている場所だけ、他の怪我人などは置かれていない。

 私をエリの隣に置くと、カーンはライナルトと雑談を始めた。

 まぁ息抜きだろう。

 現状をポツポツと語り合う。

 侯爵が息を吹き返し、ライナルトは又、後ろに退いたようだ。

 元気なうちは父親を働かせるつもりか、現場で行動するのはライナルトになるようだが、政治的な事々は父親が引き続き行うようだ。

 間違いを犯した者を頭領に残すのはどうかと思うが、それは彼らの話である。

 カーンはもちろん、私も何も言う事は無い。


「害獣が、この小領地で満足したかはわからない。

 故に、この辺り一帯を守ったのは我がアイヒベルガーであるとして、公王陛下から許しを得た。

 この特別処置は神殿にとっても損は無い。

 復興後は、この地に神殿の建立と永年援助をする事になる。と、まぁこんな具合です。

 私としては国への借財を進言しましたが、侯爵は却下されました。

 たぶん禍事の後ゆえ、神殿の威光による人心平定を考えたのでしょう」


 どういう意味だろう?


「つまり、侯爵は支配を神殿と分け合うことになる。

 ライナルト卿の意見は、俺としては真っ当だと思うぜ。

 爺さんは散々な目にあってビビったって事だ。」


 カーンの言葉に、ライナルトは苦笑いだ。

 だが、否定しないところを見ると的外れではなさそうだ。


「自治権を神殿が害する事は無いが、彼らの意志を無視する事はできない。

 無担保の貸付は、貴族にとっては恐ろしいものだ。

 神殿の金勘定の厳しさは、その辺の金貸しどころの話じゃない。

 回収が難しいとなれば、支配層は座っているだけの者になり、実質すべてが神殿の物になる。

 領民を売るも何も無い。そんな売り買いで満足する相手ではないからな。

 だから必ず金は満額で返済した上で、実効支配する侯爵は神殿に忠実でなければならない。

 今までのように、申し訳程度の分派の寺院を置いて体裁だけにしておく事は無理だ。

 今後は何をするにも、神殿にいちいちお伺いをたてる事になる。

 七面倒臭い上に、氏族内闘争ばかりに目を向けていると、宗教介入がおきる。

 俺だったら、国に借金して自分を身売りするところだ。」

「私が氏族を率いて中央軍への奉仕をすると申し出たのですが、却下されました。」

「良く言えば、それだけ期待されてんだろ。

 まぁ俺だったら、爺に寝ぼけてんじゃねぇよ。って言って家から出ていくがな。どうせ他にも子供がいんだろ?

 もう一度、お前が出稼ぎして借金返すって言やぁいいのに。

 ちょっと良い息子すぎるんじゃねぇのか?

 焼け野原にしやがった原因の爺が出張ってんじゃねぇよって、息子なら言えるだろ?

 お前、侯爵が父親だって自覚ねぇだろ」

「耳が痛いですね」


 それでも一段落ついた安堵からか、辛辣な言葉にライナルトは笑って頷いた。


「そうですね、ちょっと喧嘩してみます」

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