第25話 神と子 ②

 オルタスが中央王国となる前、遥か前の話だ。


 この地には、神がいた。


「どの神だ?」


 今在る神では無い。

 神とは、力ある人ならざるモノ。

 便宜上、神としただけだ。


「人ならざるか」


 神はことわりの外にある。

 だから、人とは交わらない。

 しかし、この地は、神と人の境が薄いのだ。

 故に、遥か昔から、ここは神域であった。

 人は、神に祈り、その恩恵を求めた。

 善き神が降りれば、その知恵と恵みが与えられるからだ。


「ほぅ善き神か、まぁ何となく先が読めるなぁ」


 神は様々なことをふりまくものだ。

 人は彼らからすれば、塵芥ちりあくた

 なれど、その時降りたのは、薄い羽を持つ、人に似たモノだった。

 それは薄い理の境に立ち、人の世を羨んだ。

 神の世が掌の小箱なら、生まれたばかりの人の世は、混沌にあり、命に縛られながらも楽しく自由に見えたのだ。


「神聖教は一柱、創造主だけだよな?」

「話の腰を折らないでくださいよ、旦那。これは宗教統一前の信仰の話です。それもこの地域の、入植前の土着宗教ですよ」

「ワリィワリィ、小僧の癖に小難しい話をするんで、つい茶化した」


 本来ならば、その姿も力も、人である限り、見るも感じるもできることではない。

 神威も降る幸運も、それは与えられた実りや穏やかなる日々にてわかる事だ。


 だが、その神は、この交わらぬ理を越えようとした。


「人を欲しがったのか?」

「人の世を欲しがった」

「こんな肥溜めをか?」

「物好きなんでしょ」

「確かに言えてんなぁ」


 神は、そのモノは、人の世界を欲しがった。

 かけられぬはずの、橋をかけようとしたのだ。

 まずは、この薄い境に、くさび穿うがった。


「これは国教でも教えられる悪意の楔の事だ」


 神々の争いが始まる前触れであり、人が大勢死ぬという予兆でもある。


「お前、神殿の子供ガキか?」

「辺境が無学の徒ばかりとは限りませんよ。

 それに渡り神官様が春から夏までいらっしゃいます」

「そういや、この辺り、神殿も教会もねぇな。普通、領主館がありゃぁあるだろうに」

「冬が厳しすぎて、お断りしてるだけですよ」

「北の絶滅領域は、神官も追い返すか」

「安全策で、御領主がお願いしただけです」

「まぁ異端容疑をかけられねぇように、ガキでも気配りするか」


 神は楔を穿ち、生き物を引き寄せる餌とした。

 やがて、獣、蟲、人、あらゆる命が集まった。

 楔は、神の力、命、人が欲する餌を蒔き続けた。

 綻びを見つけるために。


「で、簡単に言うと何だ?」

「自分の依代よりしろを、生贄いけにえで造った」

「..血生臭い話にならねぇ神話って無いのか?」

「無い」

「そうか」

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