第24話 神と子
死体の解体検分をしている男から離れ、私は通路の先を照らし見た。
森の中とは違い、気配を掴むのが難しい。
薄ぼんやりと続く通路は、古い時代の回廊にも見える。
あの骸骨兵のような、化け物が徘徊しているのだろうか。
していたとして、鷹の爺らは無事なのか。
爺は、いるのか?
そもそも王国兵が何故、辺境に来たんだ。
答えは解体処理をしている男に聞けばいい。
聞けばいいが、答えてくれるかは別の話である。
「御客人、何がおきているんですか?」
おぉ、蟹みたいだ。
と、いう言葉を聞こえないふりでやり過ごす。
私が角灯を下ろすと、カーンは刃物を拭って鞘に戻した。
「何がって、簡単な事だ」
俺達は羊飼いだ。
群れを離れた羊を戻しに来たのさ。
笑えない話に、私が沈黙していると彼は続けた。
「お前らには迷惑な話だが、運が悪いと諦めるんだな。
こっちも面倒だが仕事でな。
世の中には、色んなややこしくて馬鹿らしい事があるんだよ。
まったく、面倒な話でな」
「御領主や我らは、見逃していただけるのか、御客人」
「まぁそうだな、俺の仕事が無事に終わればな」
考えなくもない。
と、言うことか。
「で、まぁ..坊主は、知らねぇほうが身のためだ。
こっちは、色々知らなきゃならねぇがな。あぁ面倒くせぇ」
あらかた解体が終わったのか、男は大きくため息をついた。
「ここは何なんだ?
お前の田舎じゃぁ、生き物の肉を繋ぎ合わせた化け物がいるのか」
それはどんな地獄だ。
不愉快な物から顔を背けると、もう一度、奥の方へと角灯を掲げた。
「御客人、その問いは筋違いだ。わかっておられるはずだ」
それにカーンは笑いを消した。
「何か知ってるんだろう」
くだらない。
私の顔がそう言っているのだろう。
それを読み取ると彼は続けた。
「俺の仕事の話じゃねぇ、お前、ここが何だか知っているんだろう?」
何も知らない。
側に来た男と二人、足元の遺骸を眺める。
「何も」
私の言葉に応えるように、遺骸がグズグズと崩れた。
空気に触れた肉が、急激に腐って溶けていくようだ。
死臭、腐敗臭、厭な臭いだ。
これが何か、何かの前兆なのか、知りたい。
恐ろしい末路が控えているのか。
「ただ」
「ただ?」
「昔話はある」
「昔話な、で、歩きながら聞くか」
私が角灯を掲げると、男は傍らに並んだ。
大きな男を見やる。
相変わらず何を考えているのかわからない。
ただ、会話すると不思議と男の恐ろしさが減り、灯りの中だけは無事のような気がした。
まぁ錯覚だろう。
そうして闇へと踏み出した。
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