第126話 屋根裏の窓

 食事を終え見張りの順番を決める。

 一行は、早々に休むことにした。

 私は明け方頃に、カーンと早めに起きる順番だ。

 この村に何があったのか。

 それを探るのは保留だ。

 こちらに影響がなければ、良しとする事で決まった。

 そもそもこの集落は、北方辺境伯の領地ではない。

 推測ではあるが、ここから北東に位置する侯爵領の飛び地である可能性が高い。

 遺棄したのが、その領地の支配者の意向ならば、余計な詮索は内政干渉になる。

 正しくは、ここが隠れ里のようなものであれば、口出しをすると面倒なのだ。

 税の誤魔化しを疑われる侯爵側も、仕事が増えるカーン一行にしても、なんら得の無い話なのだ。

 それに不審な廃村だとしても、たかだか一晩過ごしてどうなる?

 どうにもならぬし、野盗が襲ってきた所で屁でもない。

 むしろ自分たちの方が厄介ごとである。とは、彼らの弁だ。

 確かに生首まで持参している。

 ただ、私としては疲れているはずなのに眠れなかった。

 いろいろ考えてしまうのだ。

 備蓄された冬越しの食料、あれはまずいのではないか?

 冬に備えた食料が置き去りにされた。

 私には、怖い想像しかできない。

 私と一緒に食料を見つけた男は、あっさりとしたものだったが。

 村人は戻るつもりだったのだろうと。

 備蓄までは持ち出さなかった。

 だが、村の家々は空だった。

 皿一枚残っていなかったらしい。

 家の傷み具合からして、それほど前ではない。

 ただカーン達にとっては、あまり驚くほどの事ではなさそうだ。

 彼らにしてみれば、廃村など戦闘地域にはゴロゴロしている。

 井戸水が腐れ、敵に根こそぎ殺戮されたり、村ごとの夜逃げだったり。

 それでも私は考えてしまう。

 暖炉の炎を見ながら考える。

 以前と変わってしまったから。

 でも、考えても考えても怖いことばかりを想像してしまう。

 何があったのかな?

 怖いこと、あったのかな?

 ここにいた人達は、無事なのかな?

 毛織物に包まり温かみを手繰り寄せる。

 すると、急に体が痛くなった。

 ヒリヒリと体、いや、皮膚が痛い。

 瞬きして、手をゆっくりと毛織物から引き抜く。

 手首まで蔦が絡んでいる。

 群青色の蔓薔薇の模様。

 入れ墨なのか生きた何かなのか、紋様はシュルリと手首に回る。

 浮遊感と共に、吐き気を伴う睡魔に覆われた。


 私は誰だ?

 私はオリヴィアという女だ。

 辺境の村に流れ着いた子供。

 親なしのオリヴィア。

 頭を撫でてくれたのは誰だ?

 私は、誰だ?

 草むらに倒れた子供。

 彼は逝き、その影から生え伸びた蔦。

 痛い。

 私は、誰だ?

 私は...


 ...薄暗い部屋の中、一人空を見ている。

 小さな三角の窓。

 屋根裏部屋の小さな灯。

 ここは何処?

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