第127話 屋根裏の窓 ②

 私の部屋は屋根裏にある。

 でも窓もあるし、お外も見れる。

 お外に出ちゃだめだけど、もいるから平気。

 でも、でも本当は寂しい。

 でも泣いていると、が来るから我慢だ。

 彼はいつも意地悪。

 悲しいことばかり言うんだ、嫌い。

 父様が死んだ。

 母様は裏切り者。

 姉様は嘘つき。

 あの人は、頭が狂ったって。

 そんな話を聞かせないで。

 嫌い。

 だから、お願いするの。

 今度は私を食べてって。

 私を食べて目を覚ましてよ。

 そして意地悪する青い奴をびっくりさせてって。

 でも断られちゃった。

 本当は嫌いじゃないんでしょっだって。

 でもね、叔父さんが私を売るって言ってたの。

 だからもう一度お願いしようと思うの。

 全部だと戻れないから、目と心臓を食べてもらうの。

 そうしたら、きっと負けない。

 を見つけたら、お願いしようと思うの。

 私を食べてもらって、をやっつけてもらうの。

 知ってるんだ。

 食べられても大丈夫だよ。

 でしょ?

 悪いことする人って臭いんだよ。

 教えてあげる。

 アイツは、臭い。

 アイツが悪い呪いをかけたんだ。

 何があったか、お姉ちゃんに教えてあげる。

 だから、を助けてね。


 ほら、広場で村の人が騒いでる。

 原因は自分たちなのにね。

 あの人だけでも助けたかったなぁ。

 でも、しょうがないよね。

 アイツの呪いに勝てなかった。

 皆、私の話が聞こえないんだ。

 だから、隠れたの。

 食べてもらわなくちゃ。

 村の人やアイツに見つかったら、無駄になる。

 乱暴されて売られるだけ。

 嘘つき、嘘つき。

 青い奴は私を探してる。

 ごめんね、ごめんね。

 早く、私を食べてもらわなきゃ。

 皆、死んじゃった、寒い、怖い。


 ***


 薪の弾ける音で目が覚めた。

 ぼんやりとした視界に、自分の手が男の腕を掴んでいるのがわかった。

 腕の持ち主が身を起こす。


「どうした」


 怖い夢を見たんだ。

 とは言わず、そのままカーンと共に起きた。

 今のは何だったんだ?

 そう思いながらも、自分の手首を見れば、答えがわかるような気がした。


 荷物を纏めて村を出る。

 集会所は、もう一度板でふさぐ。

 火の始末も見届け、備蓄庫の蓋にも藁を乗せた。

 そうして家々の間を抜け、迂回路に向かう。

 暗い窓が人の目のようだ。

 道は村の中を抜けて、来た道から反対、東へと続く。

 この道は大きく左に弧を描くようにして、本来の旧街道に繋がる。

 地図上では、あの土砂の先だ。

 列を組み、村外れに差し掛かる。

 そこには集落の境として粗末な柵と白い石が置かれた墓地があった。

 馬を停めはしなかった。

 けれど、私は墓地から目が離せない。

 黒い穴。

 墓全体が掘り起こされ、点々と穴が開いていた。

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