第128話 屋根裏の窓 ③

 墓は掘り返され、遺体や遺骨等は何処にも見当たらない。

 空っぽの穴。

 これは昨日、村を探索した時に発見済みの事だ。

 カーン達は、これを廃村の理由と仮定した。

 まず夏場に集落で伝染病が流行したとする。

 それが村中に広まる。

 死人も出たのだろう、近日、埋葬した遺体も掘り返して焼いた。

 それがこの空の墓穴で、冬を前に村ごと放棄。

 備蓄は気候が穏やかになったら戻る証拠。

 と、こんな具合だ。

 なかなかのこじつけ具合である。

 そして一番穏便な想像がこれだ。

 嫌になる。

 私は、墓地から目を引き剥がすと前を向いた。


「病の出た村の住人を、他の村が受け入れるでしょうか?それともここの領主が人を動かしたのでしょうか」


 私の疑問に、少し癇性な雰囲気の男が答えた。


「領主の差配で一時何処かに纏めて置かれるだろう。

 そうでもしなければ、領地から人が逃げる。

 ただ、ここが勝手に造った村だった場合は別だ。

 その場合、住民は流浪民や戦争難民と同じく都に流れるだろう。

 戦争難民に混じれば、少なくとも飢えないからな」

「王都では、一括で不逞浮浪の者を国で管理し、望めば権利が与えられるのですよ」


 物柔らかな口調の男の言い分に、他の者が口を挟んだ。


「人の権利とやらを与えて兵隊にする。犯罪を犯していそうな奴らは縛りも入る。人の権利といいながら、人間扱いされるかは疑問だろう」


 口ひげの男が嫌そうに言うと、その後ろで笑い声があがる。


「そのくらいのゆるさじゃなければ、こんなに長く殺し合いを続けられないだろう。うむ、まったく救いようがない話だ。田舎の若い奴らもこれに騙されるのだ。」


 嫌だ嫌だといつも黙っていた大柄な男が首を振る。

 そして私に向かって、つまり戦奴にするって事だよ。と付け加えた。


「民が勝手に領地抜けする事は、犯罪だ。

 他の領地に入っても、身元不明の輩は、そもそも職につけない。

 身元不明で引き受けるのは、中央の難民循環の制度だけになる。」


 と、癇性な雰囲気の(名前を聞いていない)赤毛の男が説明の補足を入れる。

 聞いたらキレて殴られそうな雰囲気なのに、真面目だ。


「つまりな、戦争労役につけば、身元不明の犯罪者でも軍は受け付けるってことだ。

 一家の男手が労役につけば、その家族は国に登録されて、王国の何処かの国に再配置される。

 まぁ開拓地でも過疎地でも、人手の欲しいところへ振り分けられるのさ」


 と、カーンが締めくくった。

 そうして雑談をしながら馬を進める。

 代わり映えのない冬の森だ。

 暇なのである。

 物知らずの私に、彼らはポツポツと会話を続けた。


 長期の戦争下、難民の循環と人の再配置が当たり前の制度になっているそうだ。


 人種の保存と兵力維持の両立が、難民受け入れの目的である。

 彼らの言う通り、厭な話だった。

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