第125話 廃村 ⑥

 煮炊きの二人以外は、集落の探索だ。

 集会場は住民の家屋より高台なので、彼らの様子がよく見えた。

 見えても不安になるだけなので、洗濯物に向き合う。

 洗い場には、煤けた洗い桶と洗濯板、それに大きな盥があった。

 側にある石鹸は、酷い匂いの塊だ。

 これは獣脂を使った石鹸で、洗うと匂いが洗濯物につく。

 清潔にしたけど臭うとか、最悪である。

 村でも自作していたので、良い香りにする為に乾燥香草と煮出したこともある。

 結果は、油っぽい上に青臭いという代物ができた。妙に犬猫に追いかけられたが、きっと彼らには良い匂いなのかも。

 もちろん、臭くて柔らかい粘土みたいな石鹸でも、使えるだけましである。

 どうせ馬と装備の臭いで、鼻は馬鹿になっている。

 あれ、獣人でも馬鹿になるのかな?

 まぁ皮膚病や伝染病にかかるよりはいい。清潔第一である。

 洗濯物の盥に水をはると、その臭い塊を投入。

 乱雑にかき回し、足で踏み、叩き擦る。

 足を洗い流して、盥の水をはり直す。

 体が冷えるより、重労働に息が切れた。

 八つ当たり気味に暴れる。

 それだけ一行の衣類が汚かったのもある。

 一度、煮炊きの竃の側で足を乾かし、戻って洗濯物を絞った。

 それを洗い場の裏、山寄りの場所に干した。

 最近まで使っていた縄が残っていたのだ。

 つい最近まで、ここで生活していた気配。

 冬に備え薪を積み、石炭を貯める。

 集会所裏の景色は、人が住んでないのはおかしいと教えていた。

 そうだ。

 ひび割れ始めていたが、柔らかみの残る臭い塊の石鹸。

 これだってまだ使えた。

 洗濯物の縄だって朽ちていない。

 でも、それを不穏に思うのは早計だ。

 何を見ても不安になるのは、状況のせいだ。

 と、思いたいな。


 冷たい風に吹き晒されて、洗濯物が凍るように水分を飛ばす。

 夜には中に入れて暖炉の側で干そう。

 煮炊きは外の竃だ。

 屋内の暖炉も早速火が入れられている。

 鉄の棒が渡されている暖炉は、中で煮炊きができるようになっている。これも建物に残されていた深鍋に水を這って火にかけた。

 これで暖かく夜を過ごせる。

 洗濯が終わり、外の竃の側で体を温め乾かす。

 一息ついて座っていると、ちょうど視界に頑丈な蓋が見えた。

 薪が積まれた壁の側、山の斜面の部分に貯蔵庫の蓋がある。

 建物と薪の囲いがあったので見落としていた。

 眉間にシワを寄せた私の表情に、目ざとく煮炊きをしていた男が気がついた。

 寡黙で目つきの鋭い男だ。

 ウムと男が頷く。

 彼も初めて気がついたらしい。

 すぐに蓋を開けてみる。

 一緒に覗き込んで、思わず顔を見合わせた。

 食料だ。

 それも大量の保存のきく根野菜や、燻製にした魚や肉だ。

 扉は、隠蔽されていたわけではない。

 考えられる事はいくつかある。

 食料を使っている人がまだいる。

 もしくは食料を回収できずに人が去ったかだ。

 この集落がなぜ無人になったかの理由で変わる話だ。

 それとも食料が罠であるか。

 罠と考えるのは微妙だ。

 そもそも、こんな辺鄙な場所に立ち寄る人間がいるだろうか?

 我々だとて、ここに立ち寄る予定は無かった。

 ひとまずカーンへの報告だけをして、煮炊きに戻った。

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