第124話 廃村 ⑤
二人一組で家々を見て回る。
私とカーンは、井戸側で荷物番だ。
荒廃してはいるが、遺棄されたのは夏頃だろうか。
立ち枯れた鉢植えの花、菜園も荒れ果てている。
家財は持ち出したのか、どの家も中は空だ。
出入りしているのは穴熊や野生の小動物に虫だけのようである。
村を遺棄する理由はなんだろう?
税を払えないような貧しさも、家の作りや全体の雰囲気からは伺えない。
病が原因かも知れないと、井戸の水は使わないことになった。
***
村の奥、北に開けた場所がある。
集会所かもしくは宗教的儀式を行う家に見えた。
神聖教の教会ではなさそうである。
大陸の宗教は、支配者の強いる国教以外にも土着宗教が多くある。
人種や民族によってもだ。
王国ができあがり、同時に宗教統一が行われ、現在は国教の神聖教のみとなった。
もちろん、その土着宗教が無くなる訳ではない。
堂々と名乗る事はないが、こうして集会場の体裁をした建物で今でも続いている。
ちょっと変わった彫刻や色彩の集会場なのだと、領主も役人もしていた。
弾圧した所で良いことは少ない上に、神聖教徒としても活動していれば十分なのだ。
そんなことを考えながら、空を見上げる。
薄曇りの空に、鈍色の線が見えた。
「降りそうか?」
私の仕草に、カーンが尋ねた。
「多分」
一行は、その集会場を宿とすることにした。
馬は山を背負った裏手に繋ぐ。
薪が積まれた炊事場が裏にあった。
建物は吹き抜けで仕切りがなく、中央に屋根を支える柱が二本突き抜けていた。
集落を見下ろすように両開きの扉があり、奥に向かって左右の壁は窓が並んでいる。
数脚の椅子が壁に寄せられていた。
思ったよりも中に物が無い。
突き当り左が裏の炊事場へ繋がり、右側に暖炉が据えられている。
暖炉は頑丈な煉瓦と鉄で組まれており、覗いた限り煙突は塞がれていない。
窓はすべて鎧戸がおり、板が打ち付けられ塞がれていた。
もちろん正面の扉も塞がれていたが簡単に開いた。
否、簡単ではない。
破壊活動に秀でた輩が、慣れた手付きで解体、当たり前のように押し入っただけだ。
まぁそこで常識非常識を問うのは時間の無駄だ。
馬の世話を手伝い馬具をおろす。
馬たちは自由になって嬉しい様子だ。
裏手の山から流れる沢の水に口をつけ、食む草を探している。
一行は村の中を探索する者と今宵の塒を整える者に分かれた。
私にも役割をくれ。
と言ったら、単独行動を控え、必ず誰かといる事。
と、いう言葉と共に仕事を割り振られた。
煮炊きの手伝いと洗濯だ。
まずは溜まり始めた一行の汚れ物の始末だ。
荷駄の中、洗濯物が突っ込まれた袋を渡される。
炊事場と洗濯場には、沢の水がひきこまれていた。
生水を飲むのは躊躇われるが、水は澄んでおり洗濯はできそうだ。
私が一行の洗濯を始めると、寝泊まりの準備をするべく二人の男が煮炊きを始める。
夜と明日の朝の食事だそうだ。
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