第189話 中原の魔物 (下)③


 私はエリに、物語の最後を聞かせた。


 やがてトゥーラアモンに日常が戻った。

 領主の死は事故とされ、新たな領主とその氏族がやってきたのだ。

 彼らも又、青馬を手に入れ支配をより強固にしようと考えた。

 けれど、領民も前の領主に仕えた兵士も懲りていた。

 学んだともいうね。

 馬を手に入れようとする領主に、彼らは共に青馬狩りへと行く事を提案したのだ。


「前の領主は耳を傾けなかったかもしれない。

 でも、領民も本当に理解を得ようとしていたのかな。

 もう少しやりようがあったかも。と、考えをあらためた。

 お互いを知るために、恐れを少し捨てようってね。 

 だから、本当の青馬の王を見せようって思った。」


 実は、前の領主は王の馬を見たことがなかったんだ。

 見たのは、普通の青馬の群れの牡で、巨大な群れを率いる王を見たことがなかったんだ。


 はじめは獰猛な馬と遭遇しないことは幸運だと思っていた。

 領主が怪我をしたら大変だからね。

 けれど、知らぬとは恐れも畏怖いふも生まない。

 領民が何を恐れているのか、わかりようもない。

 そこで新たな領主には、最初に王の馬を見てもらおうと皆で決めた。

 聞き入れてもらえるまで何度でも話し合おうってね。

 新たに来た領主は、その点、相手の話をよく聞く人だった。

 だから地元の者、前の領主の兵士達の言葉を受け入れたんだ。

 数日かけて、領主達は青馬の群れを追いかけた。

 そこで新しい領主は見たんだ。

 本当の王をね。


「大群を率いるのは、巨大な黒馬だ。

 けれど、それはりんの吐息を吐き、六本の足で中空を駆けていたんだよ。」


 それはもはや馬ではない。

 新しい領主は理解した。

 馬がほしいのなら、皆の忠言を受け入れよう。

 周りの人々、自分以外の種族の言葉もよく聞こうってね。

 そうして新しい領主は、古い言い伝えを受け入れた。

 根気よく青馬の若い牡だけを追い、決して馬を傷つけないと。

 それ以来トゥーラアモンは、馬を大切にし育てる、名馬の産地となった。

 もしも中原を旅するなら、野生馬の群れに手を出してはいけない。

 王の馬が人を殺しに来るからだ。

 青馬の王は、馬の姿をした神だ。

 決して侮り手を出してはならない。

 神をうやまおそれをもたなければならない。


 古い神の多くは、たたるからだ。


した多くの民が、女子供だった事も噂を助長しました。

 城下の混乱は、領兵を置くことで今は押さえています。」

「時に、レイバンテール氏の廃嫡理由は何です?」


 ラースは視線を落とした。


「元より、御母堂は商家の方でした。レイバンテール様は、シュランゲの奥方をめとられるにあたり、現在の地に居を構えられたのです。」

「では、その時に?」


 無言の返答は、別の答えがある事を伺わせた。

 実際、サーレルが何処まで把握はあくしているのか、誰もわからない。

 その楽しげな視線に、ラースは居心地が悪そうだ。


「貴殿の中では、既に誰が犯人かおわかりのようですね」

「とんでもない」


 と、ラースは答えると微かに笑った。

 その笑顔は自嘲がにじんでいた。

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