第58話 グリモアの主 ⑩

「俺達は、公爵の傀儡くぐつだ。

 本来ならば、血を肉を喰らう度に、支配が強くなる。

 血を、肉を喰らう度に、俺達は人から外れていく。

 けれど、俺達は、俺は残った。」

「残った?」

「俺達の人の部分が残ると、支配が弱くなる。

 だから、俺達はここに縛られている。

 彼女が気がつかぬように、番人がここに来るように。」

「これの開け方は」

「いいんだよ、これは、これで楽なんだ。

 それに少し、喋りすぎたな。

 懐かしくて、忘れちまいそうになったよ。

 自分が、罪人だって事をさ。

 でも、多少、帰り方はまずかったが、いいんだ。

 もう、いいんだ。

 少しだけ、そうだ少しだけ、森の子にお節介だ」


 ここには、ちゃんと理がある。


 御館様も爺達も、元気なんだろ?

 普通の暮らしを生きている。

 そんな人々こそが、この世界を保たせているんだ。

 ここには、ちゃんと終わりがあるんだ。

 だから、番人はいる。

 地の底に眠る神の番人がいて、腐らないようにしている。

 俺達は、その番人の餌だ。

 けれど、悪い事じゃない。

 悪くないんだ。

 俺達は餌だが、これで彼女にはわからなくなる。


「公爵の事なのか?」

「彼の書物は、オラクルの書という予言書だっていったよな。

 そして、その予言書は魔導の書物なんだ。」

「何だそれは」

「難しい話は省くが、この魔導の書物をグリモアという。

 この世には4つのグリモアがあってな、その内の一つを公爵が持っている。

 所有者は、グリモアの主と呼ばれる。

 グリモアは、主を一人としているんだ。

 そして、公爵は、そのグリモアの主で、死者を使役する力を持っている。」

「本気で言っているのか?魔導って何だよ」

「まぁ頭がおかしいと思って当然だよなぁ、俺もそう思うよ」


 さて、話がだいぶ混沌としてきたよな。

 ひとつひとつ順番にならべるとこうだ。


「役に立つかどうかわからないが、覚えておくんだよ」


 予言書と言ったが、公爵の持っている本は、色々な魂の入れ物だ。

 お喋りな本で、これをオラクルという。

 このような不思議な力をもっている物を、グリモアという。

 グリモアとは魔導の力を持つ神器だと言われている。

 魔導ってのは、理の外の力って意味だ。神官様には聞くなよ。

 異端に思われるからな。

 さて、この魔導の物の所有者を、グリモアの主と呼ぶ。

 これはグリモアが誰でも使える訳ではないという意味だ。

 特別な血が必要なんだよ。

 そしてこのグリモアは、主が、かわらないんだ。

 グリモアに、主は一人。

 グリモアは売り買いできる代物じゃないし、それには意志があるんだ。

 公爵は、そのグリモアの主だ。

 グリモアは、オラクルという予言書で、魂がいっぱい入っている。

 つまり、書物だけれど、その中身は死者が詰まっている。

 グリモアの意志がそれなのかは、俺にはわからないけれどね。 


 つまり、彼は死人を操るって訳さ。

 じゃぁ、そんなグリモアの主は、何者か?

 死人を使役する者は、こう呼ばれている。


 死霊術師だ。


 御大層な呼び名だよな、奴隷の主なだけなのに。

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