第217話 終わりを告げる鐘

「侯は、アイヒベルガーの為に嘘をつき、息子達を切り捨てた。

 イエレミアスは、親もただの人だと許し、嘘を真実とした。

 彼奴は、アレンカの嘘は、どれほどあるだろうか?

 子供は死んだと嘘をつき。

 自分は高貴な血筋だと嘘をつき。

 グーレゴーアを愛していると嘘をつき。

 イエレミアスが弟を排斥したと嘘をつき。

 眠り薬を混ぜるだけだと毒をまき。

 この不幸は、老いた侯の所為だと唆す。

 シュランゲの武器製法を手に入れてしまえば、侯爵も力を失うだろうと嘘をつき。

 村人達の自由を奪っているのは、皆、婆様とエリカだと嘘をつき。

 そうしてグーレゴーアにすべての罪を背負わせ、アレンカは、嘘を真実に変える為に、今頃、又、嘘をついているだろう」

「何故?」

「今度こそ長命種のアイヒベルガーを手に入れようと、嘘を並べているだろう。」

「何故、貴方は止めなかった?」

「見ればわかるだろう?

 俺も欲をかいて、このとおりだ。

 イエレミアスが殺されるのを防げなかった。

 グーレゴーアがシュランゲを潰すのを防げなかった。

 俺も嘘をついたから。

 イエレミアスの側から離れてしまった。

 グーレゴーアに子供の事を言えなかった。」

「何故?」


 青い髪の男は、少し軽薄な口元を歪めた。

 だが、答えは返らない。


、嫡子の従者ではないんだね。

 この男は、侯爵の孫とシュランゲの長命種の子の側にいたのだ。

 つまり、侯爵の手の者なのだ。

 それに彼は亜人だが、髪の色は何色だい?

 まったく嘘つきばかりだね)


 ***


 水はトゥーラアモンに流れる。

 フリュデンは水源の上にあり、昔から水を各地に運んでいた。

 昔、先住の民が戦に負けたのは、この水源を落とされたからだ。

 その水源に鐘の音が響く。

 話を割るように、鐘の音が響き渡る。


「侯の兵士が着いたか」

「どういうことだ?」

「侯爵は誰が盗んだか、やっと確信できた。

 もう、嘘つきを生かしておく意味もない。」


 鳴り響く鐘の音に包まれながら、痺れる頭で考える。

 それぞれの思惑で事が動き、繋がりがあるようで、無い。

 だから、物事が関連して続いているように見えても、無秩序に事が次々と起こっている。


「盗んだ?毒の金属は盗めなかったはずだ」


 それに青い男は嗤った。


(嘘つき達が、一つのお菓子をとりあっているのさ。

 よくよく思い出して。

 彼は嘘つきだ。

 侯爵も嘘つきだ。

 女も男も皆、嘘つきだ。

 嘘をついていないのは、誰だい?)


 エリだ。

 彼女は玉を抱え、撫でていた。

 咆哮する姿。

 呪術師の老婆。

 エリの探していたモノ。

 小さな白い蛇。


(君は直感に優れているね。

 今、アレとソレを結びつけて考えた。

 そうだよ、そうなんだよ。

 ..まぁでも、答えを言うと怒るから言わないけどね。)


 男の姿は再び腐れた姿に戻る。

 そうして、まわりの死体も嗤った。

 歯を剥き出しにして、肩を骨を、腐れた肉を揺らして嗤った。

 一頻り嗤うと、再び水に沈んだ。

 真っ赤な水は、囂々と音をたてて流れる。

 水路には、水音と鐘の音が響き渡った。

 私は力尽き、片手を額にあてる。

 疲れと共に、これが終わりであり、争いの始まりなのだとわかった。

 夜はまだ始まったばかりだ。

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