第218話 新月
ダイジョウブ
そう、口を動いた。
ダイジョウブ、イコウ
エリは、私の手を握ると歩き出した。
「その玉は何?」
トモダチ
そう口を動かし、玉を差し出す。
ビクつきながら、触ってみる。
滑らかで暖かく、脈動していた。
それはまるで卵のようだった。
産まれる寸前の卵。
エリは、少し微笑んでから、玉を胸に抱き込む。
「戻る道は、こっちだよ」
エリが向かうのは、違う道だ。
この地下水路を
デグチ
と、エリは口を動かした。
「わかるの?」
エリは、玉を手にしてから、表情が増えた。
目が覚めたような態度になっている。
「エリ、さっきのがいないか、注意しないと」
注意が聞こえないのか、ぐいぐいと私の手を引く。
細い石の足場に、灯りの無い暗闇だ。
本当なら
古い様式の水路は、青白い
その表面には凝った紋様が所々にある。
多分、地上からどの辺りにいるのかを、わかるようにしてあるのだ。
高度な建造物を築いていた先住の民は、呪術陣を街に施している。
(呪術を野蛮としたのは、つい最近の事なんだよ。
呪術とは、オルタスの文化文明の基礎なのにね)
つまり先住民、亜人と呼ばれる人々は、ボルネフェルト公爵と同じく呪術に親しんでいた事になる。
まやかしや迷信ではない、文化、そして文明として過去に築かれていた。
王国が所持する様々な古の技術も、元を辿ればおなじかもしれない。
(王国共通語が時を経るごとに、元々の呪術言語に近くなるのも、回帰と考えられるんだ。)
支配者層が所持する今の技術が、侵略の末、手にしたのだろうか?
(否定は最近の話なんだよ。でも、君にとっては昔話になるのかな)
呪術は魔に近しいと思うんだ。
だから、人は呪術を否定する。
否定することで、
フリュデンの円環。
血の雨を降らせる呪術は、シュランゲの呪術師のモノなのか?
咆哮をあげ、地下を徘徊しているアレは何だ?
(フリュデンの城塞は、呪術方陣によって守られていたんだ。
でも、戦で負け放棄され、年月によって残骸となった。
頭上の呪陣は、つくったばかりだね)
頭上の円環も、同じなのか?
(どうおもう?)
魔の気配が増えている。
何の為?
力には燃料が必要だ。
奥方は、見えているのか?
そもそもあれは何だ?
「婆様の呪いを止める事はできないのかな。
関係の無い人達まで、連れて行くのは駄目だと思うんだ。」
言葉に、エリが振り返る。
私が言っている事は、甘えだ。
それでもエリは、頷いた。
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