第652話 挿話 兵(つわもの)よ、剣を掲げよ盾を押せ 上 ⑧

「これは失礼を。

 ですが、私もちゃんと浄財をおさめる真っ当な信者ですよ。」


「続きを話せ。

 食人風習の是非はいらん。

 それに宗教がらみの議論を、お前のような無神論者とはしたくない。

 お互い、そこは不干渉にしないと仕事にならん。」


「そこは寛容なんで本当にありがたく思っていますよ。

 それに私、否定はしていません。

 無神論者でもありません。

 ご存知でしょう?」


「仕事以外の接点は持たないほうが、お互いの為だとは知っているが」


「えぇ〜こう見えてもぉ私ぃ〜博愛主義の熱心な信徒ですよぅ。

 人類皆兄弟、シェルバン人以外はぁ〜嫌いじゃないですぅ」


「わざと煽るな。で、続きだ。」


「まずは、この事態を伝染病と考えました。

 負債と考え、一番、厄介な見積もりを出した訳です。

 我々は戦う事なら専門です。

 反乱鎮圧ならやり慣れた仕事ですからね。

 でも、これが南部で起きた伝染病と同じく、今まで出会った事も無いだったら話が違ってきます。

 楽観主義者は最初に死にますからね。

 そこで一番困る状況、最悪の想定で行動することになりました。

 最初に伝染病の感染経路をたどる。

 犯罪ではなく、感染経路ですね。

 それをたどることに。

 医務官、アッシュガルトにいる医療従事者総動員で、検査を実施。

 対象は城塞街の住人とアッシュガルト全域です。

 城塞に近い三公領土兵の街が荒らされたので、禁足も簡単にできました。

 新規の人の移動も制限しています。」


 ちらりと意味深な視線を送るイグナシオに、サーレルはヘラヘラと笑った。


「全員ではありませんよ。

 混血は対象としましたが、獣人は外しています。

 これなら鼠にはバレない。

 鼠ですからね。」


「どういった検査をした?」


「まず、感染者を見つけることからですね。

 変異者ではなく、感染者です。

 発症の最終段階がアレだとして、その発症前の状態とやらを見つけることにしました。

 拿捕した者の交友関係、行動範囲の中で、健康状態が悪い者を探しました。」


「いたのか?」


「いました。

 細かな話しは割愛しますが、この調査に寄る見解は、特殊な条件が揃わなければ発症しない。

 と、いう結論です。

 普段の人同士の接触で広がるような代物ではないとね。

 現状では、我々への感染の危険度は低い。では、その条件が問題になります。」


「よくわからん、ともかく病なんだな?」


「同じ空気を吸っても感染しません。

 感染者の体液に触れてもです。

 医者達は、ブランド上級士官もそうですが、それでも病と定義しました。

 体に不調を覚え、不都合が生じるのですからね。

 では、その不都合は何によって齎されたのか?」


「病原性の虫を何処かで取り込んだのだろう?」


「調査の後に、被検体を数体解剖しました。

 結果、は不明でした。」


「感染源の話しじゃないのか?」


「発症前の感染者の体内にも虫は存在しました。」


 イグナシオは意味を咀嚼しようと考え込む。

 じんわりとなんとも言えない厭な気持ちがした。


「条件が揃わなければ、変異はおきないとある程度、実証できた。

 無事な人間は、その条件が揃っていないという訳ですね。

 じゃぁ条件が揃った場合、どの程度の速さ、範囲で拡大するのか?

 発症し育った虫も調べてみました。」


「どうだった?」


「変異者が死亡すると虫は外に逃れます。

 そして生き物を探し攻撃。

 生命維持の捕食行動ですね。

 この場合は相手の種族や生存は加味されていません。

 養分を無事取り込めた場合、虫は育ち繭をつくる。

 ちょっとした被検体を用意して、これも実証実験を行いました。

 えぇ本当に進んで実験に参加してくださるなんて、まぁ本人もので約束通りにしましたが。」


「新たな宿主としないのか?」


「そうです。

 虫に血を啜られても、我々獣人は、同じく虫を腹には抱えないそうです。

 他種族での実証実験はしていませんので、そこはわかりません。

 ただ、獣人の場合、奴らを始末した場合、虫は攻撃行動をしてくるでしょう。

 我々は餌であり、繭をつくる為の苗床にしたいようです。

 そうそう死体ですと人種は問わず、その繭の苗床にするようですね」

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