第276話 我は悪霊なり (上)
差し込むとすれば、この鏡張りの小箱に他ならない。
何故、どうしてだ?
この類似は何だ?
呪術とは何だ?
(領域全てを掌握する程の技術、過去であり未来。
君たちの生きる時代にあっては、ならない代物、かな?
神と人は、過去、近しい場所に置かれていた。
そうして神の傍らで、幾度も幾度も、人、という生き物は産まれ消えた。
ここでいう産まれ消えるとは、今の君たちが産まれ消えるという意味ではない。
君たちと同じように存在した、人、という概念の別の生き物の事だよ。
この循環する構造を作り出した存在を、人は、神としている。
長い講釈は必要ない?
そうだね、君たちの世界は若いが、代わりに成功例が少ない。
元々、古い世界から、落ちてきた命だったからね。
参考にした生命体の多くが、良くなかったのもある。
あぁわからない話は止めろ?
しかたないなぁ、まぁ、皆、暇で退屈を持て余しているんだよ。
さて、簡単にね。
これは鍵であり、扉だ。
真偽の箱ではない。
名乗るならば、修道士の箱かなぁ。
召喚、召還の設置点をつくりだす。
いわゆる領域をつなぐ門の役割を為す。
何故、修道士の箱か?
君はもう出会ったじゃないか。
死者の宮で四人の番人に。
元は彼らを呼ぶ儀式の箱だ。
彼らを崇める者が持つ道具がこれだよ。
本来の目的は失われてしまったけれどね。
さぁ強く願えば、扉となる。
君が行きたい場所へね。)
サーレルと侯爵を見る。
(何を躊躇うのかい?
子供を助けるのに、自分ひとりで何もかもできると思っているのかい?
確かに、今の君ならできるだろうね。
僕達が助力すれば、きっと成せない事は無い。
けれど、それで大丈夫かな?
君は、それでいいのかい?
僕が今、こうして喋っているのは、珍しい事に、皆、君を心配しているんだよ。
君、だから、心配しているんだ。
普通の事を言うよ。
もし、子供を連れて逃げるなら、大人の男が二人いるだけでも随分と頼もしい事だ。違うかい?
だから君は、躊躇わずに助けてもらわなくちゃ駄目だ。
僕達に、助けを求める前に。
人間に、助けを求めるんだ。
僕は優しいけれど、僕達は、優しくないんだからね)
私は、彼らに鍵と箱を見せる。
二人は頷いた。
確かに迷う暇は無い。
侯爵にとっては自身の土地の、そして不明な場所の事である。
サーレルに対しては、さほど罪悪感は無い。
彼の場合は、己から巻き込まれに来るだろう。
息をひとつ吐く。
それからゆっくりと、歪な鍵を差し込んだ。
カチリと微かな音。
不意に、ぐにゃりと視界が歪む。
唐突に上下の感覚を失い、目が回る。
そうして、あっという間に暗転し、己が消え去るのがわかった。
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