第445話 絵札 ⑤

「アンタの名前を教えておくれ。愛称でいいよ」

「ヴィ」

「何で、俺の時は聞かないんだよ」

「あぁ聞きたくないね。

 旦那の悪運と一緒に、嫌な空気を背負ってるのが見えるからさ。

 余波でこっちまで巻き込まれそうだ。

 それに信じてない輩に、占いの言葉なんぞ意味ねぇだろ。

 これでも商売だからね。

 きちんとお代分、こっちのお嬢様を占うって事さ。文句ねぇだろ、旦那。

 どうせなら、女に何か買ってやるのが男の甲斐性だろうが。

 暇ならその辺の商品を見繕ってろよ、旦那さんよ」


 言われたカーンは、溜息をついた。

 それから、私を椅子に下ろすと、店の品を見始めた。


「誰が買うんだ、こんなもの?」

「本当に失礼だね、安っぽいのはワザとだよ。

 金持ちはきちんと作る店に行くし、お貴族様はそもそも街で買い物なんざしねぇだろ。

 ここにあるのは裏町の姉さん方に、馬鹿が買う為に置いてあるのさ。

 高い物なんざ買っても無駄だし、金を落とす方が喜ばれる。

 それでも話の種の土産ぐらいもって行きゃぁ相手も気分が良いってもんだ。」

「ほぉ、まぁ海辺だ。花よりもこういうのが良いってわけか」


 お喋りの間に、札が並べ終わる。


「知りたい事は無い?

 なんでも良いよ、お姉ちゃん」


 商売口調より幾段、普通の子供らしい言葉遣いで彼女が聞いてくる。

 私が頭を振ると、彼女は裏返しの札を前に肘をついて目を閉じた。


「私は白い魔女だ。

 婆ちゃんから引き継いだばっかりだけどね。

 だから、お客には幸運の助言をしないとならない。

 人生の善き道筋を照らす灯りとなれってのが、婆ちゃんの口癖だった。

 私もいずれは、灯りとなれるように修行中って事。

 でも、修行中でもちゃんとした白い魔女だから、安心してね」

「お婆ちゃんの口調を真似しているの?」

「そうだよ、ここは荒くれ者ばっかりが来るからね。店番もけっこう大変なんだ。一応、地元出身の兵隊が見回ってくれてるけどね」


 そういって、彼女は躊躇いなく七枚の札を抜き出した。

 札の絵柄は、酒盃、二つ星、花籠、女性、天秤、墓石、高い塔だ。

 それから、その札の上に重ねるように更に七枚の札を引く。

 剣を掲げた戦士、鳥の巣、火を囲む三人の女、朱と白の花の咲く木、湖、草を刈る農夫。

 その札を混ぜて切り伏せる。

 そして一枚の札を返す。


「さて幸せを引き寄せる占いをしよう。

 最初の札は双子星だ。

 物事には多くの意味がある」


 二枚目は天秤の札。


「双子は正しく公平を意味し、天秤が行いをはかる。

 つまり、心正しく公平に物事を判断していけば、物事は自然と良き方向へ動くとなる。」


 次に酒盃、草を刈る農夫だ。


「酒盃は成果、農夫は努力を必要とする事が起きる。

 つまり、困難が予想されるが努力を怠らなければ成果を得られる。

 怠れば、無に帰すという考えもあるけれど、つまりは自分次第だ。

 こっちの鳥の巣と花の咲く木も同じだね。

 前に進めって感じだ。

 で、次が少し厄介だ。」


 と言って引かれたのは、火を囲む三人の女の札だった。

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