第445話 絵札 ④

 ムッとした様子で、彼女は更に絵札を引いた。

 三人の女が、火を囲んでいる。


「何て出た」


 少女は私を見つめてから、カーンを睨んで答えた。


「眠ってる。

 来年の今頃は寝ているよ」

「何だそりゃ」

「言葉通りだ。

 彼女は寝ている。

 目を覚まさない。

 誰も眠りを邪魔できない。」

「商売だったら、もう少しお愛想をいれないと客が逃げるぞ}


 カーンの言葉に、彼女は眦を吊り上げた。


「アタシは白い魔女だ。

 嘘は言わないんだよ。

 嘘をつくと、力が消えるんだ。

 ともかく彼女は深い眠りについているって出た。」


 魔女という言葉に、反射的に問いかけていた。


「死ぬのですね」


 それに今度ははっきりと彼女は怒った。


「死ぬなんて軽々しく言葉にするんじゃないよ!

 言葉に出せば、死神に聞かれるからね。

 いいかい、アタシは寝てるって言ってんだ。

 死ぬなんて言葉は使っちゃいない。

 止め止め、あんまり深く考えないでおくれ。

 これはお遊びなんだからね。

 次は何を占う?」

「客に怒鳴るなよ、普通は何を占うんだ?」

「金運、健康運、愛情運に、運勢、愛称、好きな相手の気持ち、何でもいんだよ。暇つぶしなんだ、暇つぶし、真剣に聞くんじゃないよ」


 と、彼女は私の方を見据えて言った。


「じゃぁそうだな。後四つだから、適当にその辺を占ってくれ」


 少し飽きたカーンの言葉に、彼女は嫌そうに口を曲げた。

 だが、少しホッとした様子で札を混ぜ始める。


「旦那、白い魔女って何ですか?」


 私の問いに彼は首を傾げた。

 かわりに子供が答えた。


「良い魔女の事さ。

 白い魔女は、神様の声と精霊様が見えるのさ。」

「では、悪い魔女もいるのでしょうか?」

「そこの旦那は知っているだろう?

 裏町には、おっかねぇ魔女だらけだ」

「ガキが余計な事いうんじゃねぇよ」


 と、二人でニヤニヤ笑っている。

 その間にも、子供の手は動き、札を置いては捲っていく。

 暫くすると、カーンの前には数枚の手札が並んだ。


「金運は上々吉だ。

 そこそこ財産も残せるし、土地もいいようだ。

 賭け事は止めといたほうがいいね。

 まぁ騙されても回収はできるだろうが、そもそも賭け事向きじゃないよ。

 体は健康、長生きの相だ。

 ただ、誰かに恨まれない立ち回りが必要だ。

 これは来年以降、相当恨まれそうな流れだね。

 でも間違いなく旦那の悪運が勝っているから、死ななそうだ。

 そうそう女難の相が出ているよ。

 苦労をしてもいいって相手は離しちゃならないと出てる。

 浮気は駄目って事だ。

 やっぱ、そっち方向で恨まれてんじゃねぇの?

 旦那、ほどほどにしないと思わぬ事で死にそうだ。」


 カーンはヤレヤレと首を振る。

 聞く方も占う方も、いい加減でやる気が見えない。

 まさしく暇つぶしなのだろう。

 次に、再び札を回収すると丁寧に切る。

 そして鮮やかに広げては、慎重に並べだした。

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