第376話 幕間 牢屋にて ②
オロフが床に転がっている。
正確には、カーンの足元に捕縛用鎖縄付きでだ。
両手足は獣人用の枷がついている。
床に引き倒され、鎖縄の先はカーンが握っていた。
どうやら抵抗と言っても、オロフからの手出しは最小限だったようだ。
ボロボロのオロフに比べて、カーンには傷も汚れも見えない。
良い判断だが、そうなると破壊の殆どがカーンの仕業になる。
まぁ原因は馬鹿二人であるし、請求書はコンスタンツェ行きなのは変わりない。
ただ、酷い絵面だった。
無表情のカーン。
ヘラヘラ笑いながら命乞いする血塗れのオロフ。
そして微笑みながら、牢奥の粗末な木の机と椅子でお茶をするコンスタンツェ。
ジェレマイアの登場に、カーンは何故か頷いてから、無言で一発オロフを殴る。
殴られた方は、お助けぇという情けない言葉を漏らして倒れた。
石牢の松明に照らされる景色は、ちょっとオカシイどころではない。
「わかった。もう、わかった。ちょっと、動くんじゃねぇ」
牢外に控える神殿兵は、古兵だったのであまり動じてはいない。
きっと動じない人員がいるのだろう。
それに、少し耳を塞ぐように声をかける。
もちろん、善き信徒は余計な事など聞こえないのである。
了承を得てから、ジェレマイアは喋りかけた。
「今回の事態は、神殿会議後に処分を言い渡す。
ただし、殺処分は無しの方向だ。」
無表情の凝視を跳ね返しつつ、ジェレマイアは片手をあげた。
「わかってるって、甘い処分にするんじゃねぇし不問って訳でもねぇ。
理由はこれから言うから、暫く、拷問を止めろ。
それからコンスタンツェ様よ、俺は本気で怒ってるし、ちょっとは話を聞けよ。」
カーンの視線がオロフに下がる。
コンスタンツェはニコニコと笑いながら小首を傾げた。
どちらも不気味だ。
唯一、馬鹿でも常識は一応知っているオロフのヘラヘラ笑いが引きつる。
「まず、コンスタンツェ。
今回はやりすぎだ。
証人を隔離したのには、理由がある。
今、お前の体の異変がそれだ。
彼女の心根が善き者であっても、特別な力と神の愛を受けている。
だから、体を治す間だけでも平穏に過ごせるように取り計らったのだ。
配慮を無駄にした報いを、お前が受けるだけならいい。
彼女はとても悲しんでいるし、お前達の暴力で心を痛めている。
わかるか?
お前達の行いで、いらぬ苦痛を与えたんだ。
そしてお前自身は、理解しているか?
呪いであると、自覚できているか?」
それにコンスタンツェは、満面の笑みで答えた。
「あぁ、十分理解しているぞ。
私は間違っていた。
私の人生は間違っていたのだ。
これからは善き隷下として、あの方をお守りするのだ。
常にお側にて仕えねばならぬ。
それに常に神は見ておられる。
ふふふっ、そうだ。
この度の損失すべては私が償おう。
壊した宿舎やその他も、彼女が苦しまぬように、そうだ。
もっと美しい物を建てよう。
いつもお側にて侍れるように、どのような建物が相応しいだろうか?
どう思う、オロフ?」
「それを、今、俺、にぃ聞くっすかぁ!」
主の代わりに、容赦無い一発がオロフにキマる。
それにあぁなる程とジェレマイアは理解した。
一応、カーンも配慮はしていたようだと。
まぁ狂人を殴っても意味が無いのが本当のところだろう。
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